りぼんの読書ノート

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日本マンガ全史(澤村修治)

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サブタイトルに鳥獣戯画から鬼滅の刃まで」とあるように、日本マンガの全体像を歴史的に記述した一冊です。もちろん全てを語りつくすことなど不可能であり、ここで紹介された多くの作品を読むことなしに全てを理解することなどできないのですが、少なくともマンガの歴史の潮流を理解できたように思えます。

 

平安期の「鳥獣戯画」や江戸期の「北斎漫画」などは世界的にも先進的なものでしたが、明治期に英仏から入ってきた風刺画に刺激を受けて、「のらくろ」や「フクちゃん」や「ダン吉」などが生まれた戦前・戦中期までは前史でしょう。日本マンガの発展の基礎は、やはり手塚治虫にあるのです。寺田ヒロオ、石森正太郎、藤子不二雄赤塚不二夫、松本あきら、つのだじろうなどの「トキワ荘グループ」が、戦後復興期のマンガ興隆時代を担ったわけです。

 

その後20世紀末までの半生記は、マンガ雑誌に注目すれば理解しやすそうです。トキワ荘グループを抑えたて「伊賀の影丸」「おそまつ君」「おばけのQ太郎」などをヒットさせた『少年サンデー』と、それに対抗して劇画系の「巨人の星」や「あしたのジョー」を生んだ『少年マガジン』は、いずれも1959年3月17日の創刊です。その後『少年キング』や『少年チャンピオン』も創刊され、1968年の『少年ジャンプ』創刊をもって5代紙時代がはじまります。このあたりは三国志戦国大名の戦いのようですが、やがて「友情・努力・勝利」をコンセプトに新人作家を発掘・養成し続けた『ジャンプ』が黄金時代を築きあげていくのです。

 

一方で少女マンガ雑誌も『りぼん』『なかよし』『ちゃお』『花とゆめ』などが創刊され、水野英子浦野千賀子、里中真知子、大和和紀美内すずえ大島弓子竹宮恵子萩尾望都一条ゆかり山岸涼子らの作家が綺羅星のように登場。もちろん白戸三平、さいとうたかお水木しげる水島新司らを輩出した青年向けコミックも忘れてはいけません。

 

しかし21世紀になるとマンガ雑誌の部数は減少して、電子版コミックが伸張していきます。紙ベースに限定しても、作品が連載されるマンガ雑誌よりも、個別のヒット作のコミックスのほうが多くなるのです。もはや体系的は俯瞰など困難なのですが、著者はここでも手を抜いていません。「メディアミックス」「セカイ系」「空気系」などにも触れつつ、最新の大ヒット作である「鬼滅の刃」に至るまで、ほとんど毎年の動向を記していくのです。

 

マンガの発展過程に関与し続けてきた著者は、「マンガの伸長のピークアウトは1990年代であり、その後でクールジャパンの代表選手として評価されるようになったことは皮肉である」旨のことを述べていますが、これは大衆文化としてはよくあることで、そこには「再逆転を含意するダイナミズムさえ見出せる」とのことです。なかなか読みたい作品には巡り合えませんが、今後にも期待し続けたいものです。

 

2021/1