りぼんの読書ノート

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オオカミは大神(青柳健二)

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神社を巡っていると、中国ルーツの獅子型の狛犬でも、稲荷神の使いである神社の狐でもない、まるで和犬のような像が鳥居や本殿の両側を守護しているのを目にすることがあります。これはオオカミ信仰に基づく狼像のようです。本書は、写真家である著者が実際に各地の狼像を訪ね歩いたフォト・ルポルタージュであると同時に、現在は絶滅したとされるニホンオオカミの記憶をたどった作品です。

 

著者が狼信仰と狼像に関心を抱いたのは、秩父の椋神社に伝わる「オイヌゲエ」という祭りに参加したことがきっかけだそうです。「オイヌゲエ」とは「お犬替え」であり、家や田畑を守る「狼を描いたお札」を1年ごとに交換する儀式だとのこと。そしてこの儀式を行っている神社は、秩父地方に十数社もあるというのです。狼信仰の中心は秩父三峯神社であり、その起源は山中で迷ったヤマトタケルの道案内をした狼にまで遡るとのこと。もともと農作物を荒らす鹿や猪を駆除する狼は、日本では益獣として大切にされていたそうです。

 

しかも各地の狼像の大半は、西洋式の恐ろしい狼ではなく、まるで和犬のように可愛いのです。確かにニホンオオカミの剥製写真を見ると、大きさも大型から中型の犬ほどであり、顔つきも優しい感じがします。実際には、犬と狼の混同もあったのでしょう。とはいえ恐ろしい姿の狼像も多く、著者は宗教に取り込まれた狼が実像とはかけ離れた姿に変化していったのではないかと述べています。

 

本書で紹介されている、関東のみならず日本各地の狼像は、見ているだけでも楽しいもの。そういえが本書には紹介されていませんが、千葉寺の前にある三峯神社末社でも、一対の狼像が社を守護していることを思い出しました。ニホンオオカミは大神(狼)として、今も生き続けているのです。

 

2021/1