りぼんの読書ノート

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シーソーモンスター(伊坂幸太郎)

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本書を読むまで知らなかったのですが、2019年に中央公論新社による奇妙なプロジェクトが行われたそうです。それは9人のベストセラー作家が共通のルールのもとに古代から未来までの歴史物語を競作するというもの。本書には、プロジェクト発起人でもある著者による2つの中編が収録されています。、

 

「シーソーモンスター」

舞台はバブルに浮かれる昭和の日本。米ソ冷戦よりも恐ろしい嫁姑の争いは、なぜ起こってしまったのでしょう。そこにはこのプロジェクトのテーマでる「海族と山族の対立」が潜んでいるようなのです。元腕利き情報員の宮子が結婚したのはごく普通の製薬会社の営業マン。しかし夫の父は不慮の事故で亡くなり、その目撃者も半年後に交通事故死。さらには宮子が私的に調査を頼んだ現役情報員も不審死を遂げて、宮子自身も襲撃されるとなると、何やらそこには恐るべき真相が潜んでいるとしか言いようがありません。ついに夫までもが襲われるに至って、宮子は本気で動き出すのですが・・。いかにも著者らしい謎解きが見事な作品です。

 

「スピンモンスター」

舞台は2050年の日本。前作の主役であった宮子さんも超元気なお婆さんとして登場しますが、彼女は脇役。不幸な事故を乗り越えて配達人となった主人公が、ある天才科学者が遺した手紙を彼の旧友に届けたところ、いきなり警察から追われる身となってしまったのです。それは暴走した人工知能による指令なのでしょうか。あやふやな記憶を携えたまま、主人公は人工知能を停止させるべく、超監視社会の中を逃げ回るのですが・・。「海族と山族の対立」は、主人公と、彼を追う警察官の2人によって体現されています。対立とは新たなものを生み出す原動力でもあるのでしょうか。このプロジェクトの他の作品も読んでみたくなりました。

 

2021/1