りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012-01-01から1年間の記事一覧

ジャンヌ・ダルク暗殺(藤本ひとみ)

英仏百年戦争末期に登場してフランスを救った悲劇の聖女ジャンヌ・ダルクを描いた小説は数多いのですが、本書は同名の娼婦ジャンヌを主人公として、神の声に従う処女と将軍たちの関係を描き出した作品です。 神の意思を疑わない敬虔な騎士がアジャンクールの…

ロサリオの鋏(ホルヘ・フランコ)

本書は『パライソ・トラベル』の前段的な作品といえるでしょう。著者が扱うテーマとしても、コロンビアの若者たちがアメリカに恋焦れる背景としても・・。 本書は、銃撃された女性ロサリオが語り手によって病院に運び込まれるところから始まります。この文章…

マンチュリアン・リポート(浅田次郎)

清朝末期の西太后を主人公に据えた『蒼穹の昴』と満州の英雄・張作霖が長城を超えるまでを描いた『中原の虹』に続くシリーズ第3弾は、昭和天皇の密使が張作霖爆殺事件の謎に迫る作品となっています。 本書では、天皇の密使となった志津中尉が調査結果を報告…

ブラバン(津原泰水)

1980年に入学した広島県の高校で吹奏楽部に入った主人公が、25年ぶりにバンドを再結成させる物語ですが、物語の重点は高校時代のエピソードに置かれています。基本的には青春回顧小説ですね。藤谷治さんの『船に乗れ』に近いものを感じます。 コントラ…

末裔(絲山秋子)

帰宅したら鍵穴が消えていたという奇妙な理由で、誰も居ない家から閉め出されてしまった定年間近の男は、それ以前に「家族」も失っていました。妻は4年前に病死し、嫁の言いなりの息子は実家に寄り付かず、娘は家を飛び出してしまった後は、毎日が一人暮ら…

恋肌(桜木紫乃)

『ラブレス』と『ワン・モア』でブレークした桜木さんの初期短編集です。北海道を舞台にダメンズたちと出会いながらも逞しく生きる女性たちの物語群には著者の原点を見る思いがしますが、当時はまだ「新官能派作家」などと呼ばれていたんですね。 「恋肌」 …

世界の99%を貧困にする経済(ジョセフ・E・スティグリッツ)

1990年代代半ばにアメリカの経済政策運営に携わり、世界銀行の上級副総裁などを務めた後に2001年度のノーベル経済学賞を受賞した経済学者が著した「1%の1%による1%のための政治」を批判する警鐘です。アメリカ社会の不平等に抗議した2011…

魔法泥棒(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ)

ジブリアニメの原作となった『魔法使いハウルと火の悪魔』の著者による「大人向きのファンタジー」です。かなり色っぽい作品ですので。 地球のもろもろの技術が異世界にこっそり盗みとられていることが判明し、魔法使い評議会のメンバーは異世界襲撃隊を送り…

バナナ剥きには最適の日(円城塔)

難解さというよりシュールすぎてわかりにくい作品をつむぎ続ける著者の、「どちらかというとわかりやすく、そのくせ深い」9作の短編を収録した本ということになっています。ただ私としては『これはペンです』や『道化師の蝶』のほうがわかりやすかったと思…

武器よさらば(ヘミングウェイ)

著者自身の、第一次大戦時に従軍記者としてイタリア北部戦線に滞在した体験をもとにした作品です。当時のヘミングウェイ本人を主人公とした物語が、クリス・オドネルとサンドラ・ブロック主演の「ラブ・アンド・ウォー」として映画化されています。 ストーリ…

サイバラバード・デイズ(イアン・マクドナルド)

2047年のインドを舞台にしたSF短編の連作です。 温暖化によってモンスーンは途絶え、水をめぐる争いから分裂したインド亜大陸では、AIや遺伝子操作などのハイテクが繚乱する一方で、男女比率はアンバランスとなり、カースト制もヒンズー教もクリケッ…

ほそ道密命行(田牧大和)

「芭蕉密偵説」を逆手に取った作品です。本書では、芭蕉本人は密偵でも忍者でもなく、芭蕉の影響力を恐れたり利用しようとしたりする勢力に付きまとわれたという設定。 時は徳川5代将軍・綱吉の時代。生類憐みの令に反旗を翻す水戸光圀公に対して、側用人・…

カラマーゾフの妹(高野史緒)

『カラマーゾフの兄弟』に「13年後の物語」という第二部の構想があったことはよく知られていますし、それは「テロリストとなったアリョーシャがコーリャら少年たちと皇帝暗殺をもくろむ物語」になったであろうとの大胆な憶測も、今では一般的な解釈でしょ…

2012/10 パライソ・トラベル(ホルヘ・フランコ)

詳細に比較したわけではありませんが、女流作家3人のデビュー作を読みました。少女の傲慢さを描く完成度ではサガン、書くことへの情熱では林真理子、不思議な感性では吉本バナナでしょうか。「処女作にはその作家の全てがある」という言葉の意味を考えさせ…

四文屋~並木拍子郎種取帳(松井今朝子)

町奉行に仕える同心の家に生まれながら芝居に惚れこみ、並木五瓶の弟子になって狂言作家を目指している筧拍子朗が綴る大江戸人間模様の第4作です。 「蔦と幹」 トンボ返りが得意な斬られ役の新吉が金に困っている理由は、幼馴染のワルからの強請なのでしょ…

キャッチャー・イン・ザ・ライ(J.D.サリンジャー)

ある年代の人々には「聖書」のように扱われた作品です。そんな「古典」が村上春樹さんの新訳で復活しました。 しかし、この本のどこがそんなに素晴らしいのか、正直いってよくわかりません。大戦後間もなくのアメリカを舞台に、主人公のホールデン・コールフ…

雪解靄(神通明美)

富山地裁の書記官として長年勤めた著者による、「身近」な事件の裏に潜む人間模様を描いた短編小説集です。それそれの事件は、家賃不払いによる立ち退きとか、親権を有する親への子どもの引渡しなど、日々どこかで起きているようなものであり、話題性やミス…

闇が落ちる前に、もう一度(山本弘)

どのようにして「とんでも理論」をリアルに見せかけるか。きっと読者を興奮させて冷静にさせないドラマ性と語り口の魅力が勝負所なのでしょう。「とんでも理論」の権威でもある山本さんは、やはり上手ですね。 「闇が落ちる前に、もう一度」 ランダムな粒子…

赤猫異聞(浅田次郎)

明治元年暮のこと、幕府は既になく明治政府による新体制もまだ出来ていないという宙ぶらりんの時代。激変の予感と不安を抱きながらも、人々はこれまでの生活を惰性的に続けている状態の江戸の町。そんな中で起きた大火によって小伝馬町の牢屋敷から解き放ち…

アーサー王最後の戦い(ローズマリ・サトクリフ)

第1部『アーサー王と円卓の騎士』で円卓の騎士団の誕生を、第2部『アーサー王と聖杯の物語』で聖杯探索による滅びの始まりを描いたシリーズ最終巻では、ついに騎士団の崩壊が描かれます。 そもそも神の恩寵を受けていたはずのアーサー王と円卓の騎士団がな…

アーサー王と聖杯の物語(ローズマリ・サトクリフ)

アーサー王の宮廷キャメロットに円卓が登場してから20年。既に多くの冒険を成し終た円卓の騎士たちの前に最後の騎士として現れたのは、湖の騎士ランスロットとペレス王の娘エレインの間に生まれた息子ガラハッドでした。彼の登場とともに聖杯の幻が現れて…

殺戮のオデッセイ(ロバート・ラドラム)

原題は「ボーン・スプレマシー」。『暗殺者』=「ボーン・アイデンティティ」の続編です。映画は冒頭で恋人マリーを殺害されたボーンの復讐が情報機関内部に巣食う陰謀の暴露につながっていく物語ですが、こちらはもっと複雑。 1997年の香港返還の直前、…

暗殺者(ロバート・ラドラム)

原題は「ボーン・アイデンティティ」。マット・デイモンによるヒット映画「ボーン3部作」の原作となった作品です。かなり前に読んだのですが、映画の印象が強すぎてしまい、原作のストーリーを相当忘れていました。 作品の骨格は同じです。記憶を失って海で…

パライソ・トラベル(ホルヘ・フランコ)

血と死と、貧しい未来以外、何も与えてくれない祖国コロンビアに絶望し、夢の国アメリカに密入国した若者たちを待ち受けていたのは、過酷な旅と、さらに過酷な現実でした。 コロンビアのメデジンに住む平凡な青年マーロンは「ここで生きるなら死んだ方がマシ…

道頓堀川(宮本輝)

『泥の河』と『蛍川』に続く、自伝的な「川3部作」の最後にあたる作品です。 時代は昭和44年。両親を亡くした後、大阪の道頓堀沿いの喫茶店に住み込みながら大学卒業を目指す邦彦と、無頼の過去を持つ喫茶店の店主・竹内の視点から描かれる物語は、歓楽街…

ワインズバーグ・オハイオ(シャーウッド・アンダスン)

川上弘美さんが『どこから行っても遠い町』について「本書のような作品を書いてみたかった」と述べているのを見て、この本を手にとってみました。 本書によって生まれた「平凡な町の平凡な人々の群像劇」というスタイルは多くの人によって用いられ、最近読ん…

キッチン(吉本ばなな)

サガンの『悲しみよこんにちは』に続いて天才少女作家のデビュー作を読みましたが、時代と国の違いの大きさを感じますね。サガンのデビュー作が論理的なのに対し、こちらは情緒的。主人公のキャラも、傲慢で攻撃的なセシルに対して、本書のつぐみは受動的で…

悲しみよこんにちは(フランソワーズ・サガン)

サガン18歳のデビュー作です。陽光きらめく南仏コート・ダ・ジュールの海岸を舞台にして青春特有の残酷さをみごとに描ききった作品ですが、あらためて読むと、その完成度の高さに驚かされます。 ストーリーはいたってシンプル。放蕩者の男やもめの父レイモ…

レッドゾーン(真山仁)

「ハゲタカ・シリーズ」第3作では、莫大な外貨準備高を元手に国家ファンド(CIC)を立ち上げた中国が、低迷するアメリカのBIG3救済をからませながら日本最大の自動車メーカーに買収をしかけてくるという、世界規模での戦いが描かれます。 経済合理性…

小説フランス革命7 ジロンド派の興亡(佐藤賢一)

いよいよ第2部が始まりました。ルイ16世が幽閉されて王権を停止される「8月10日事件」を境にしてフランス革命は新しい段階へと入っていくことになりますが、事件の前夜である1792年の1月から8月はじめまでを描いた第7巻は、2人の道化役の動き…