りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

闇が落ちる前に、もう一度(山本弘)

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どのようにして「とんでも理論」をリアルに見せかけるか。きっと読者を興奮させて冷静にさせないドラマ性と語り口の魅力が勝負所なのでしょう。「とんでも理論」の権威でもある山本さんは、やはり上手ですね。

「闇が落ちる前に、もう一度」 ランダムな粒子の配列が宇宙を生み出したのだとしたら、それはどのくらいの確率で起きるのでしょう。「ほぼ無限大のゼロ」を予測しつつも大掛かりな実験を行った宇宙物理学者がたどりついたのは「わずか17日に1回」起きるという答えでした。宇宙の寿命はわずか17日間なのか・・。『神は沈黙せず』に繋がっていく短編です。

「屋上にいるもの」 周辺で一番高いビルの屋上に棲むモノは、連続して起きた行方不明事件と関係があるのでしょうか?これはホラーですね。

「時分割の地獄」自我があることを否定され続けたバーチャル・アイドルのAIが仕掛けた殺人事件とは、どういうものだったのでしょう。彼女はモニターの外には出られない仮想の存在なのですが・・。名作『アイの物語』に繋がっていく短編です。AIの仕事がタイムシェアリングになるのは納得できます。

「夜の顔」 この世界の外側と接点を持ってしまうと、こんなに怖い目に合ってしまうでしょうか。『百億の昼と千億の夜』で阿修羅王がたどり着いた「外側」とは違う種類の怖さです。「顔」のモデルが竹中直人と聞いて怖さが倍加しました。

「審判の日」 ある日突然、500に1人しか残さずに人々が消えてしまった世界に残された少女は、ひとりの少年と出会いますが、この世界の異常さに気付いていきます。残されたのは「世界が消えてなくなってしまえばいい」と思った者ばかりということは、現実世界では500人に1人の割合で失踪者が出たということ。世界から消えてしまったのは少女たちだったのでした。山本弘バージョンの「最後の審判」ですね。

2012/10