りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012/10 パライソ・トラベル(ホルヘ・フランコ)

詳細に比較したわけではありませんが、女流作家3人のデビュー作を読みました。少女の傲慢さを描く完成度ではサガン、書くことへの情熱では林真理子、不思議な感性では吉本バナナでしょうか。「処女作にはその作家の全てがある」という言葉の意味を考えさせられました。

1位とした『パライソ・トラベル』のフランコは、アギニスや、ボラーニョや、モヤと並ぶ「ラテンアメリカ新世代」のひとりです。
1.パライソ・トラベル(ホルヘ・フランコ)
祖国コロンビアに絶望して夢の国アメリカに密入国を試みた若者たちを待ち受けていたのは、過酷な旅と、さらに過酷な現実でした。無一文で英語も話せないマーロンは、恋人レイナとはぐれて迷子になり、いきなりホームレスに転落してしまいます。マーロンはレイナと再会できるのでしょうか・・。重いテーマの作品ですが、読後感は悪くありません。「愛する人が居る所こそ故郷である」との著者の思いが主人公に託されているからなのでしょう。

2.野良犬トビーの愛すべき転生(W・ブルース・キャメロン)
野良犬として生まれたトビーが何度も生まれ変わって別の犬生をおくる物語。野犬としてガス室に送られ、犬好きの一家の少年に愛され、警察犬として人命救助に携わり・・しかしトビーはなぜ、転生を繰り返さなければならないのでしょう。トビィは4度目の犬生で、魂の目的とも言うべき使命に巡り合うのですが・・。少々人間に都合よくできすぎていますが、ワンコ好きにはたまらない作品ですね。^^

3.ワインズバーグ・オハイオ(シャーウッド・アンダスン)
「平凡な町の平凡な人々の群像劇」という「ワインズバーグ方式」を生み出したパイオニア的な作品です。このスタイルには多くの後継者が現れますが、だいたいはつまらないんですよね。しかし「オリジナル」作品である本書は、構成も内容も優れています。20世紀を前にして「取り残される敗北感」を感じている田舎町の人々の描写は深い人間観察によるものですし、最後に町を出ていく青年の成長物語との対比が素晴らしいのです。