りぼんの読書ノート

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道頓堀川(宮本輝)

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泥の河』と『蛍川』に続く、自伝的な「川3部作」の最後にあたる作品です。

時代は昭和44年。両親を亡くした後、大阪の道頓堀沿いの喫茶店に住み込みながら大学卒業を目指す邦彦と、無頼の過去を持つ喫茶店の店主・竹内の視点から描かれる物語は、歓楽街に生きる男と女たちの暗い情念に満ちていながら、不思議と明日への希望を感じさせる物語となっています。

水商売のまち子姐さん、邦彦の父に以前世話になったという小料理屋の主人の玉田、ゲイのかおる姉さん、身寄りのない境遇から自分でお店を持つに至った野心家のユキなどのさまざまな人物が登場して、それぞれの人生を感じさせてくれるのです。

そんな中で中心に据えられているのは、喫茶店店主・竹内の物語でしょう。戦後すぐの大阪で出会った鈴子と所帯を持って政夫という息子を得たものの、やがて鈴子は息子を連れて占師と駆け落ち。数年後に鈴子を殴り殺してしまった竹内は、暗い悔恨を抱えながら暮らしていたのですが、日本一の玉突きの名人になるという息子と衝突しています。実は竹内自身、かつて玉突きの名人だったのですが、やがてそれぞれの人生を賭けて対決に至る親子関係が物語を動かしているのです、

しかし主題はやはり、さまざまな人物の人生と交差していく邦彦の成長物語なのでしょう。まち子に惹かれて結ばれるものの、歓楽街の灯りを映しながらも暗く淀む道頓堀川は2人の行く先を暗示しているようです。

この時代にはまだ著者は小説を書き出してはいません。大学卒業後、広告社に入社してコピーライターの仕事に就き、競馬に熱中して破滅的な人生に向かいそうになったもののパニック障害を発症して退社。小説家を目指すのはそれからなのですが、学生時代に得た交友関係が人間を観察する眼を養っていたのでしょう。一読するに値する作品群です。

2012/10