2022-07-01から1ヶ月間の記事一覧
1.喜べ、幸いなる魂よ(佐藤亜紀) フランス革命前夜の18世紀ベルギー。商家で双子の姉として生まれた聡明な女性ヤネケは、当時最先端の科学に惹かれます。生命の驚異を探求するために「実験」として子供を産むみ落とすほどに狂おしい情熱は、彼女を半聖…
今年4月に京都を訪れた際に西陣エリアにも行ったばかりなので、楽しく読めました。西陣とは京都中心部の西北にあって、北は大徳寺、東は京都御所、南は二条城、西は北野天満宮に囲まれた3キロ四方の地域のこと。高級絹織物の西陣織で有名なところです。 本…
1930年代のニューヨーク・ブロンクス。地下鉄が通ったことでアイルランド人、イタリア人、ユダヤ人らの移民居住者が増え、一部の地域では酒の密売人やギャングも横行していたものの、まだまだ平和な生活が営まれていた時代。主人公であるユダヤ人の少年…
著者は「プラハの春」崩壊後カナダに亡命して出版社を設立し、数百作のチェコ語の書籍を刊行し続けた作家です。同時代の作家であるボフミル・フラバルがチェコに留まって検閲や発禁処分に耐え続けたのとも、ミラン・クンデラがフランスに亡命してチェコ文化…
八百屋の娘・お七の放火が起こった翌年、吉原から「お七様」が化けて出たという噂が広まり出します。吉原一の遊女・紅花太夫が稲荷神社の境内で見かけた、奇妙な子守唄を唄う幼い娘「七」とは何者なのでしょう。紅花太夫の依頼を受けた、人気女形の荻島清之…
ロボットやAIの歴史は、ヘーパイストスの金属の乙女やピグマリオンのガラテアという、ギリシャ神話時代に遡ります。その後、『タルムード』のゴーレムやメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』やカレル・チャペックの「ロボット」などのエポックを…
祖国オーストリアともに転落していく双子の物語『バルタザールの遍歴』でデビューした著者は、完全なSFである『天使・雲雀』をはさんで、ヨーロッパ史に埋もれた事件に着目した作品を多く書き綴ってきました。16世紀ドイツの異端審問物語『鏡の影』、ル…
江戸に店を開いて8年。卑劣なライバル音羽屋の後添いとなった妹・結の裏切り、絹物を扱う呉服商仲間からの除外という困難を乗り越えて、五鈴屋の木綿ビジネスは成長しています。湯上りの身拭いにすぎなかった「湯帷子」を、夕涼みや寛ぎ着としての「浴衣」…
かなりホラー寄りの不条理劇が12編収録されています。何が起こっているのか全然わからないのに、物語世界に読者を引き込んでいくパワーが凄まじい。極限状況に追い込まれた登場人物たちの必死さがダイレクトに伝わってくるのです。 「前に進む」。 配偶者…
四万十の村、瀬戸内海の小島、別府の温泉町、そして仙台。流浪の生活を続ける母と息子は、何から逃亡しているのでしょう。劇団員だった父親が大女優の運転する車で事故に遭ったことがきっかけでした。その女優は自殺し、父親が行方不明になったことで、マス…
シリーズ第4巻は、古代帝国の中で最も関心の高いローマです。しかし前753年の建国神話に起源を遡る都市国家ローマが実質的に帝政になったのは、シーザーの跡を継いだアウグストゥスが元首となった前27年のこと。それまでは覇権を握った文明とはみなさ…
今年の3月30日に突然、「新たな夢ができた」として日本将棋連盟を退会した京都大学卒の元女流棋士が、昨年秋に出版していた将棋ガイドです。タイトルにある「観る将」とは、藤井聡太5冠の活躍によって最近増えた「自分ではほとんど将棋を指すことなく、…
タイトルの意味を「インド系のインターネット」のことかと勝手に想像していましたが、全然違いました。主人公の青年がカンボジアで訪ね歩く姉弟のことを「どこに行っても繋がって光るインドラの網に絡まる宝石でり、そのひとつひとつが他の宝石を映し出して…
「興亡の世界史シリーズ」の第3巻は、ローマ以前に地中海の覇権を握ったカルタゴです。ローを標準とする「正史」においては、カルタゴは異物であったかのような扱いがされることが多いのですが、著者は「当時はフェニキア・カルタゴとギリシャ・ローマの関…
東ドイツ出身の元大学教授とアフリカ難民の交流を描いた『行く、行った、行ってしまった』の著者のデビュー作はmなんとも不思議な作品でした。 物語は、ある朝バケツひとつだけを持って商店街に佇んでいた女の子が発見された場面から始まります。14歳とい…
アルバニアからイタリアへの移住者の子孫であるカルミネ・アバーテを別にすれば、アルバニアの作家の作品を読むのは初めてかもしれません。アルバニアというと、体制が変わったものの経済的に破綻した祖国を脱出すべく、数万人もの人々が大型貨物船でイタリ…
「興亡の世界史シリーズ」の第2巻ですが、実は本書は再読でした。講談社学術文庫版を以前に読んでいたのです。どうりで既読感があったわけだ(笑)。従って、先のレビューであまり触れていない個所を重点的に記しておきます。 古代世界において東西を代表す…
「1ヶ月後に小惑星が衝突して地球は滅びる」ことが確実な未来となったときに、人はどのように生きるのでしょう。伊坂幸太郎さんの『終末のフール』と似た設定ですが、そちらの終末は8年後。一旦は乱れた秩序も回復して小康状態を保っている世界が描かれま…
この著者の作品を読むのは、昏睡状態に陥った少女が短い生涯を振り返る『アリスの眠り』以来かな。『ハムネット』とは、11歳で早逝した文豪シェイクスピアの長男の名前です。『ハムレット』との関りが指摘されているのは言うまでもありません。本書は、シ…
柴田勝家との戦いで武勲を挙げた秀吉の小姓たちは「賎ケ岳の七本槍」として勇名を馳せ、その多くが後に大名となりました。しかし「7」という縁起の良い数を用いるためにカウントされなかった男こそが、豊臣家のために最大の働きをすることになったのです。…
赤軍に敗れて台湾に逃れた国民党の大陸反抗の試み、大躍進政策に失敗して荒廃した毛沢東時代の中国、小説と現実が混じり合う狂気じみたプロットと、多くの要素を取り込んだ野心的な小説ですが、基本的には「愛と自由の物語」なのでしょう。 主人公の柏山は、…
小さな楊枝屋の四男坊から、大店の仕出屋「逢見屋」に婿入りした鈴乃助。妻の千瀬とは相思相愛の間柄であり、誰もが羨む逆玉婚のはずだったのですが、逢見屋には大きな秘密がありました。それは入り婿はいっさい仕事に手を出してはいけないということ。それ…
後に、中世ベネツィアの孤児院附属音楽院を舞台とする『ピエタ』や、江戸時代の人形浄瑠璃をテーマとする直木賞受賞作『渦 妹背山婦女庭訓魂結び』を著わすことになる著者の、初期作品です。本書に先行する『チョコリエッタ』の延長線上にある作品といえるで…
「紅霞後宮物語シリーズ」の著者が、これまでとは全く違う作品に挑みました。著者の言葉をそのまま用いると「架空の地方公共団体・北加伊道を舞台にした、専門性のあんまりないライトなゴーストバスター物語」。いきなり吸血鬼の血をひくマダムが登場したり…
徳川の治世が武断政治から文治政治へと切り替わろうとしている第4代将軍・家綱の時代。まだ20代の水戸光圀が父親から引き継いだのは、幕府転覆を目論む勢力に対する隠密組織「拾人衆」を率いるお勤めでした。そしてその諜者たちは、特異能力を身につけた…