りぼんの読書ノート

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興亡の世界史2.スキタイと匈奴 遊牧の文明(青柳正規編/林俊雄著)

「興亡の世界史シリーズ」の第2巻ですが、実は本書は再読でした。講談社学術文庫版を以前に読んでいたのです。どうりで既読感があったわけだ(笑)。従って、先のレビューであまり触れていない個所を重点的に記しておきます。

 

古代世界において東西を代表する騎馬遊牧民である「フン族匈奴の後裔であるのか」という問いは、ロマンティックで魅力的です。北匈奴が中国史から消えてから200年後、ローマ史にフン族が登場するわけですが、本書はその説を肯定も否定もしていません。考古学的にも共通点が見出せるとのことですが、現時点では「可能性は否定できない」くらいだそうです。

 

それよりも本書の目的は、フン族に先行して紀元前8世紀に登場したスキタイと、紀元前4世紀に登場した匈奴を比較することによって、「遊牧騎馬民は文明を築いたのか」との問いに回答を与えようとする試みなのでしょう。著者によると、都市の発生、王権の誕生、巨大建造物の建設、官僚制度や裁判制度の創設、文字の発明という「都市型定住社会を前提としする文明の定義」には、やはり該当しにくいとのこと。しかし遊牧民であることの自由さ、移動性の高さに由来する、多様性、柔軟性、国際性という側面が、東西文明の交流に大きな役割を果たしたと、著者は言い切っています。同感です。

 

さらに東西の巨大文明との関係を深めた8世紀以降になると「草原遊牧都市文明」が開化。将来的にも「環境にやさしい生活様式」である遊牧民は生き残っていくだろうと予言しています。ユーラシア大陸の両端で生まれたスキタイと匈奴という騎馬遊牧民の性質が似通っていることを、文献的・考古学的に丹念に検証した著者の結論です。

 

2022/7再読