りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

滅びの前のシャングリラ(凪良ゆう)

「1ヶ月後に小惑星が衝突して地球は滅びる」ことが確実な未来となったときに、人はどのように生きるのでしょう。伊坂幸太郎さんの『終末のフール』と似た設定ですが、そちらの終末は8年後。一旦は乱れた秩序も回復して小康状態を保っている世界が描かれましたが、こちらの1カ月はあまりに短い時間です。荒廃が深まっていくなかで、生きる意味を模索する「家族」の姿が描かれます。

 

「家族」と言いましたが、厳密にはずっと家族だったのは、粗暴な夫から逃げ出して母子家庭の道を選んだ元ヤンキーの静香と、ずっといじめられてばかりだった高校生の息子・友樹。ヤクザであった父親の信二は混乱の直前に人を殺していて、再会した静香からはじめて息子の存在を知らされたばかり。もうひとりの友樹の初恋相手・雪絵は、自分が養女であることを知って、最期のときに誰といるかを自分で選びました。4人の「家族」は、小惑星衝突の瞬間までライブを行うと宣言した女性ロッカーLOCOのコンサートへと向かうのですが、LOCOもまた複雑な事情を抱えていたのです。

 

本書の登場人物の誰もが、普通であれば重罪である行為を犯していたのですが、それが不問に付されてしまうことは慈悲なのか、罰なのか。滅亡を前に荒廃していく世界の中で「人生をうまく生きられなかった」登場人物たちは、最期の時までをどう過ごすのでしょう。そして最後の一瞬まで「命を謳い尽くす」ことを選んだ者たちは、幸福であったといえるのでしょうか。

 

『流浪の月』で2020年の本屋大賞を受賞した著者による受賞後第1作です。難点の多い登場人物たちに感情移入させてしまうテクニックは流石ですが、「小惑星衝突による地球滅亡」という設定にはやりすぎ感が否めません。ありがちな設定ですしね。

 

2022/7