りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

コロロギ岳から木星トロヤへ(小川一水)

イメージ 1

本格ハードSFの大作天冥の標を展開中の著者による、ラノベ感覚SFです。

宇宙規模の時空間を往来する存在・カイアクの尻尾が引っかかってしまったのが、西暦2231年の木星前方トロヤ群の小惑星アキレス。小惑星間の戦争に敗れてライバル星の占領下にある小惑星で、屈辱的なモニュメントとなっている宇宙戦艦の廃墟から抜け出せなくなってしまったのです。そこに忍び込んで閉じ込められた2人の少年が、必死で信号を送ります。

それを受け取ったのが、現代日本北アルプス・コロロギ岳にある山頂観測所。カイアクの頭部は時空を超えて、こんなところに来ていたのですね。「太い大根」という描写ですが、多次元生物の3次元断面図ですから、実態がどんなものかは想像がつきません。しかも、まだ見えていない部分は地球の直径よりも太いというので、こんなのにのたうちまわられては、人類の滅亡は必至!

かくして、カイアクを通じて21世紀の日本と23世紀の小惑星の間でコミュニケーションをとりながら、カイアクを脱出させる奇想天外な作戦が始まりました。ポイントは、日本側の主人公が2人とも腐女子であること。「無邪気で健気な年下少年ラブ」の姿勢が奇跡を可能にするのです。

何をどうしたら「現在から未来へ」情報や指示を伝えられるのか。地球規模の伝言ゲーム、世界遺産文化財への落書き、法律の改正、そして何機ものロケット。かなり荒唐無稽感はありますが、このあたりが「ハードSF」たる所以ですね。ただし「過去の改変」による「未来への影響」は、あまり厳密ではなかったようなのが気になりました。

2015/8