りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

興亡の世界史9.モンゴル帝国と長いその後(青柳正規編/杉山正明著)

16世紀の「大航海時代」に先立つこと250年、13世紀に中華から東ヨーロッパに至るユーラシア大陸の大半を緩やかに統合した「大モンゴル国」は、史上はじめて「世界統一」をはたした国家でした。それまで互いに意識する必要もなかった東アジアとヨーロッパが、中央アジアを介してボーダーレスに繋がったのです。マルコ・ポーロイブン・バトゥータは複数の人物の所業を重ね合わせたものかもしれませんが、聖王ルイから大ハーンへの書状や、オングト族のサウマー使節団の記録などの第一級の資料も数多く残されているのです。

 

そしてモンゴル世界帝国で整備・統合された、「軍事連合体をベースとする多種族複合国家」というシステムが、ユーラシアに共通するスタンダードとなっていったようです。直接の後継者であるロシア帝国オスマン帝国、サファヴィー帝国、ティム―ル帝国、ムガール帝国、明・清帝国はもちろんのこと、モンゴルと接したマムルーク帝国や神聖ローマ帝国も例外ではありません。

 

しかし東西のどちらにおいてもモンゴルの影響は過小評価されているようです。ロシア帝国明帝国も、その勃興期においてモンゴルを敵視し、多民族国家であることを否定しようとする力が大きく働いたことが理由なのでしょう。さらには19世紀ヨーロッパで体系化された「西欧本位の世界史像」が、現代に至るまで支配的であることも大きな理由のひとつのようです。

 

本書はそうした「通念」を覆す試みです。中央アジアに帝国を築いたティムールはもとより、モスクワ公国のイヴァン1世や清朝太祖のヌルハチが、チンギス家の血筋を引く女性を妻に迎え「チンギスの婿」として新興国家の統治を始めたということは「黒歴史」として公言されていません。相対立する数多くの国家に分断されたユーラシア大陸において、未発見・未紹介・未処理の文献・遺跡の調査は困難ですが、国境・人種・宗教を超えた衆知の結集が待たれる次第です。

 

2022/11