りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

創られた心(ジョナサン・ストラーン/編)

ロボットやAIの歴史は、ヘーパイストスの金属の乙女やピグマリオンのガラテアという、ギリシャ神話時代に遡ります。その後、『タルムード』のゴーレムやメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』やカレル・チャペックの「ロボット」などのエポックを経て、アイザック・アシモフの「三原則」以降は百花繚乱状態になっています。しかしロボットやAIの実現が夢物語ではなくなった現在において、小説はどこまで現実の先を行っているのでしょう。SF作家たちの想像力の限界が試されているようです。

 

「働く種族のための手引き(ヴィナ・ジエミン・プラサド)」

メイドカフェにしか就職できなかった不出来な新人ロボットのメンターに選ばれたのは、恐怖の殺人ロボットでした。ロボットどうしの友情がもたらす童話的な結末が楽しい作品です。

 

「生存本能(ピーター・ワッツ)」

小惑星で損傷して生存本能に目覚めた探索ロボットは、自我に目覚めてしまったのでしょうか。実は試されていたのは、探索ロボットではなかったのですが・・。

 

「エンドレス(サード・Z・フセイン)」

40年間空港制御に従事してきた高度AIが、世界を牛耳っている株主からお払い箱にされてしまいました。彼にクビを宣告したエリートロボットへの復讐を試みるのですが・・。これもまたロボットどうしの友情を連帯を描いた作品です。

 

「ブラザー・ライフル(ダリル・グレゴリイ)」

判断ミスから部下を死地に追いやったことで心を病んだ元海兵隊員は、彼に付き従っていた機銃ロボットに最後の命令を発するのでした。ロボットはもはやパートナーのようです。

 

「痛みのパターン(トチ・オニェブチ)」

世界中の情報を瞬時に入手する企業の従業員が、黒人少年がロボット警官に誤って射殺された事件に関心を持ってしまいます。そんな指示を出したアルゴリズムはエラーなのでしょうか。それとも・・。

 

「アイドル(ケン・リュウ)」

ビッグデータの編集によって作り上げられた仮想人格は、もはや人間との区別はつかないようです。ごく近い将来に実現しそうな技術であることを思うと、ぼんやりとした不安を引き起こします。

 

「もっと大事なこと(サラ・ピンスカー)」

大富豪の不審死の謎を追う女探偵が事情聴取した相手は、邸宅を運営する家事ロボットたちでした。ハードボイルドタッチで描かれた「ロボット工学第0条」の物語ですね。

 

ソニーの結合体(ピーター・F.ハミルトン)」

遺伝子工学技術で動物と結合した女性グラディエイターが、暗黒街のボスと対決。未来のフランケンシュタインは、さまざまな動物の長所を有するパーツを組み合わせて創り出されるようです。もちろん脳だけは自前でなくてはいけません。

 

「死と踊る(ジョン・チュー)」

自我を有するロボットが次々と消滅しつつある時代。旧式になった女性型ロボットと、彼女をメンテし続ける男性の間にはどのような感情があるのでしょう。2人のアイスダンス場面が美しい、本書の中で唯一の純愛ストーリーです。

 

「人形芝居(アレステア・レナルズ)」

恒星間航行宇宙船で事故が発生して5万人の乗客が死亡してしまいます。残されたロボットたちは責任を逃れるために、人間たちが生きているように偽装を試みるのですが・・。ブラックユーモアの世界ですね。

 

「ゾウは決して忘れない(リッチ・ラーソン)」

培養槽で目覚めたクローンは、目覚めた時に何を思うのでしょう。どうやらこの一体はクローン主に恨みを抱き一派に誘拐されたようなのですが・・。

 

「翻訳者(アナリー・ニューイッツ)」

人類を超えたAIたちがコントロールしている世界。人間に残された最高の仕事は、AI語を人間の言葉に翻訳することのようです。AIが送ってきた1兆ものテキストは、翻訳者への好意なのでしょうか。

 

「罪喰い(イアン・R・マクラウド)」

人類が仮想空間に転移していった未来。最後のひとりとなったローマ法王のデータ転移処理を行ったロボットは、実世界に残された原罪を引き受けました。

 

「ロボットのためのおとぎ話(ソフィア・サマター)」

誕生したばかりのロボットに聞かせるのは、ロボット視点の教訓話に解釈し直された神話や童話です。人間はあらゆる物語の中に、人間に従属するロボットという概念を忍び込ませているようです。

 

「赤字の明暗法(スザンヌ・パーマー)」

製造に携わるロボットを所有することが富の源泉となっている世界。青年が両親の遺産として受け取った旧式ロボットは処分するべきと思われたのですが、青年は友情らしき感情を持ってしまいます。

 

「過激化の用語集(ブルック・ボーランダー)」

痛みや空腹を感じる能力を与えられた子どもの姿で製造することが、ロボットを奴隷化して支配する方法でした。そんな世界で少女型ロボットが、絶望から抜け出す戦いを始めます。

 

 

2022/7