りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

年老いた子どもの話(ジェニー・エルペンベック)

東ドイツ出身の元大学教授とアフリカ難民の交流を描いた『行く、行った、行ってしまった』の著者のデビュー作はmなんとも不思議な作品でした。

 

物語は、ある朝バケツひとつだけを持って商店街に佇んでいた女の子が発見された場面から始まります。14歳という年齢以外は、身元も名前も語ろうとしない少女は、養護施設に入れられて学校へと通わされます。しかし彼女は何も理解しようとせず、周囲に溶け込もうともせず、身体だけは丸々と発育しているもののまともに歩けないほどに愚鈍なのです。ただただ集団の最下層に位置して、同年代はおろかずっと年下の子どもたちからも虐められる境遇に満足しているような少女は、いったい何者なのでしょう。

 

しかし彼女は欺瞞の中に生きていたのです。最後になって、彼女の不思議な振る舞いの謎が解けてくるのですが、その理由についてはいっさい触れられないままに物語は終わります。そして解釈は読者に委ねられます。親子の絆、教育、規則、社会体制、世間の常識、子どもで居続けることの意味、そして生きる意味・・・全てが否定されたような少女は、ピーターパンでも、カスパー・ハウザーでも、『ブリキの太鼓』のオスカルでもないことは明白なのですが・・。う~ん、もう少し理解のための手がかりが欲しかった。

 

2022/7