りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

インドラネット(桐野夏生)

タイトルの意味を「インド系のインターネット」のことかと勝手に想像していましたが、全然違いました。主人公の青年がカンボジアで訪ね歩く姉弟のことを「どこに行っても繋がって光るインドラの網に絡まる宝石でり、そのひとつひとつが他の宝石を映し出して光る宝石」にたとえた言葉だったのです。

 

主人公の八目晃は、何の取り柄もなく強い劣等感と閉塞感を抱えて生きてきた25歳の青年です。彼の唯一の光り輝く思い出は、高校時代にカリスマ性を持つ野々宮空知と親しく付き合ったことでしたが、卒業後は音信不通になっていました。しかし空知の父親の訃報を聞いて葬儀に出席したことから、晃の運命が一変してしまいます。空知も彼の美貌の姉妹も父親の葬儀に出てくることなく、彼の母親からカンボジアで消息を絶った空知を創作して欲しいと依頼されてしまうのです。

 

いかにもダメ人間らしく、旅の入り口は気楽なものでした。しかし託された現金を盗まれ、機上で知り合った謎めいた女性・吉見からバックパッカーが集う安宿を紹介され、現地で成功しているらしい木村なる怪しい男に取り込まれ、カンボジアの闇を彷徨うことになるのです。そんな時に彼のインターネットに「空知は死んだ」という情報が書き込まれるのですが・・。

 

本書の刊行記念対談で著者が触れていた映画「地獄の黙示録」のように、闇の中を進んでいくに連れて欺瞞と狂気と暴力がグレードアップしていくのですが、その中で晃は力強さを身に着けていきます。ラストの衝撃も「地獄の黙示録」クラスですね。著者は本書について「巨悪対個人の話が究極の愛の物語になった」と語っていますが、その試みは成功しています。

 

2022/7