りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2019-05-01から1ヶ月間の記事一覧

2019/5 郝景芳短篇集(ハオ・ジンファン)

7年近い大阪生活を終えて、東京に戻ってきました。正しくは千葉ですけれど。吹田市の図書館にはたいへんお世話になりました。あらためて浦安市の図書館にお世話になります。リアルの引越しも大変でしたが、ブログの引越しをどうしたらよいか、まだ悩んでい…

郝景芳短篇集(ハオ・ジンファン)

ケン・リュウ編の現代中国SFアンソロジー『折りたたみ北京』の表題作の著者による短編集です。1984年に天津で生まれたまだ若い著者は、山村の子供たちに教育機会を提供する学院を設立するなど、世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーズに…

スタートボタンを押してください(ジョン・ジョゼフ・アダムズ/編)

「ビデオゲーム」をテーマとして書かれた作品を編んだ、楽しいSFアンソロジーです。「この新しいメディアのおかげで、受動的な参加者ではなく、本当の主人公になれた」という、『ゲームウォーズ 』の著者アーネスト・クラインによる序文の言葉が、すべてを…

国境の向こう側(グレアム・グリーン)

日本オリジナルの短編集ですが、本書と『二十一の短篇』と『見えない日本の紳士たち』を合わせて、全短編が「ハヤカワEPI文庫」に収録されたことになるようです。巨匠のウィットを思う存分楽しめます。 「最後の言葉」 未来のディストピアを支配する将軍…

サロメの乳母の話(塩野七生)

歴史上の有名人物の身近にいた人は、その人物をどのように見ていたのでしょう。かなり楽しんで書かれた作品のようですが、著者による人物評価のほうが、意外と実像に近いのかもしれません。 「貞女の言い分」 夫オデゥッセウスの帰還を20年待ち続けた妻ペ…

チンギス紀 2(北方謙三)

ついに15歳となって父祖の地に戻ったテムジンは、父イェスゲイの死で四散したキャト氏族を呼び戻すことを決意。帰還を知らせるために弟カサル、従者ボオルチュ、槍の達人ジェルメを率いて、たった4騎で草原を駆け巡りますが、モンゴル族の盟主の座を狙う…

紅霞後宮物語 第7幕(雪村花菜)

ついに小玉の軍人皇后としての本格的な活躍が始まりました。鍛えられた軍を有する寛と、騎馬戦を得意とする康の2カ国を相手にして、小玉は勝機を伺います。しかし開戦を前にやってきた康の密使は、夫である皇帝・文林を倒して女帝となることを薦めるのです。…

書店主フィクリーのものがたり(ガブリエル・ゼヴィン)

ともに本好きな若い夫婦が開いた、島に1軒だけの小さな本屋。しかし妻の事故死によってひとりになった夫フィクリーは偏屈になり、大切にしていた稀覯本も盗まれて打ちひしがれてしまいます。そんなある日、書店に捨てられていた小さな子供マヤを手放せなく…

多々良島ふたたび - ウルトラ怪獣アンソロジー(山本弘ほか)

「ウルトラシリーズ」世代の7人の作家による、オマージュ作品集です。原典を知らなくても、シリーズを貫く世界観さえわかっていれば楽しめるはずです。 「多々良島ふたたび(山本弘)」 レッドキングやガラモンが登場した「怪獣無法地帯」の多々良島に、測…

トム・ハザードの止まらない時間(マット・ヘイグ)

「遅老症」なる超長生きの遺伝子を有する人々が、ごく少数存在するという設定のSFです。主人公のトムもそのひとりで、4世紀以上の年月を生きているのですが、長生きと幸福とは必ずしも両立するものではないようです。 成長の遅い息子を生んだことで魔女狩…

京都伏見のあやかし甘味帖 3(柏てん)

一瞬にして仕事も恋も失って、京都で人生休憩中の小薄れんげ、29歳。甘味マニアの草食大学生・虎太郎が営む古民家に民泊し、なぜか伏見稲荷の神徒という子狐クロに懐かれてしまいます。不思議な事件に遭遇して滞在延長中ですが、いつまでも中途半端な生活…

変わったタイプ(トム・ハンクス)

本書の著者は、あのトム・ハンクスです。アメリカの国民的映画俳優が書いた短編集というので、どうしても先入観を抱いてしまいがちですが、そのような心配は不要です。どの作品においてもプロットがしっかりしているのは、「映画で役作りをする場合に背景の…

チンギス紀 1(北方謙三)

「大水滸伝シリーズ」完結から2年、満を持して新シリーズが始まりました。南宋・金・梁山泊の三つ巴の戦いから身を引かされて北方へと去った胡土児は、どのようにモンゴル族の英雄と関わっていったのでしょう。「岳飛伝」の最後が1150年ころで、チンギ…

紅霞後宮物語 第0幕3(雪村花菜)

稀代の天才と呼ばれた女性軍人でありながら30代にして突如皇后となり、帝国に中興期をもたらして後に神格化された関小玉の活躍は、本編で綴られています。本書は彼女の伝説の始まりを記した「第0幕シリーズ」の第3巻。 前巻で最悪の部下として配属された…

貧乏だけど贅沢(沢木耕太郎)

『深夜特急』の著者が、各界有名人と「旅における贅沢な時間」について語り合った対談集です。いきなり空港へ行ってから目的地を選ぶという井上陽水。船旅をこよなく愛した阿川弘之。インドのブッダガヤに留まり続ける此経啓助。死に場所を見つけたいと語る…

ピアノ・レッスン(アリス・マンロー)

短編の名手としてノーベル文学賞を受賞した著者が、1968年に出版したデビュー短編集です。平凡な人生の中で光り輝く一瞬を切り取る「作家の視点」は既に完成されています。著者の自伝的エピソードが多く含まれている点も興味深いもの。50年前の作品が…

ヒッキーヒッキーシェイク(津原泰水)

タイトルにある「ヒッキー」とは「引きこもり」のこと。ヒキコモリ支援センター代表を名乗る、いかにも胡散臭い竺原丈吉こと「JJ」が、ヒキコモリの天才たちを集めて壮大なプロジェクトを開始するのです。 JJを介して集められたメンバーは、天才的美少女…

帰れない山(パオロ・コニェッティ)

1978年にミラノで生まれた作家の自伝的作品です。北イタリア山岳地帯の登山を唯一の趣味とした頑固な父親が、不和となっていた息子に遺したものとは何だったのでしょう。 主人公の少年時代、まだ父親に反発するなど考えも及ばなかったころ、父親は少年を…

ラジオ・ガガガ(原田ひ香)

ラジオドラマのシナリオライターとして創作活動を始めた著者による、ラジオをテーマにした連作短編集です。ラジオというものは、パーソナルな性質を持っているようですね。ひとりで聴くことが多いからでしょうか。著者は、ジョン・カビラ、伊集院光、オード…

剣と紅(高殿円)

2017年の大河ドラマ「おんな城主直虎」で有名になった、遠州井伊谷の女領主・井伊直虎を主人公とする小説です。本書の出版は2012年なので、こちらのほうがかなり前ですね。 今川家、武田家、徳川家の接点に近い遠州井伊谷を領地としてきた井伊家が、…

じごくゆきっ(桜庭一樹)

2004年から2014年までの10年間に書かれた作品を収録した短編集です。久しぶりに『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない などの初期の作品を思わせる雰囲気が漂っている、少女から大人の女性へと変貌する不思議な生き物の世界に浸ることができました。実際…

ヒゲのウヰスキー誕生す(川又一英)

朝ドラ「まっさん」のモデルとなった「日本のウイスキーの父」竹鶴政孝氏の評伝です。女性小説家の植松三十里によるリタとマッサン がリタ視点であるのに対して、こちらは正面から竹鶴政孝氏の足跡を追っていきます。 1894年の広島県竹原町の日本酒造店…

ビッグゲーム(ダン・スミス)

サミュエル・L・ジャクソン主演のアクション映画のノヴェライズ版ですが、本書だけで成立するほど完成度が高い作品に仕上がっています。 舞台はフィンランドの未開の森。今まさに13歳の誕生日を迎えて、狩人の村における大人への通過儀礼である「狩の試練…

左京区恋月橋渡ル(瀧羽麻子)

京都の古い学生寮で、趣味と研究を偏愛する仲間たちに囲まれて4年間をすごした理系大学院生の、みずみずしい初恋物語です。 花火好きが高じてエネルギーの研究をしている山根が、糺の森で出会ったのは、突然の雷雨に浮かび上がる満開の山桜の向こうに佇む、…

片桐酒店の副業(徳永圭)

とある地方都市の一角に佇む古い酒店の2代目店主は、変わった副業を持っていました。それは「法に触れない限りは何でも」配達を請け負うという仕事。もちろん、酒の配達ついでに済ませられるようなものではありません。 アイドルにプレゼントを直接手渡して…