りぼんの読書ノート

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ヒゲのウヰスキー誕生す(川又一英)

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朝ドラ「まっさん」のモデルとなった「日本のウイスキーの父」竹鶴政孝氏の評伝です。女性小説家の植松三十里によるリタとマッサン がリタ視点であるのに対して、こちらは正面から竹鶴政孝氏の足跡を追っていきます。

1894年の広島県竹原町の日本酒造店に生まれ、家業を継ぐべく大阪高等工業学校の醸造科にて学んだ後に、大阪の摂津酒造で修行。しかしそこで純国産ウイスキーの製造を目論んだ会社の指示で、スコットランドに留学。数年間という単位での留学とは夢のようですが、何もかも手探りで、現地の蒸留所での実習も自力でアレンジするなどというのは、現代とは異なる次元の苦労です。後のリタ夫人と出会ったのもこの時です。

しかし留学から戻った日本は不況期で、摂津酒造ではウイスキー造りを断念。次いで入社した寿屋(後のサントリー)で山崎蒸留所長としてウイスキー生産を始めたものの、本格ウイスキーへと向かわなかった会社方針との相違から、約束の10年で退社。そして出資者を募って、北海道の余市で大日本果汁社(のちのニッカ)を設立するのです。

製品として出荷されるまで、長年寝かせておかなくてはならないウイスキーというのは、厄介な商品ですね。ビジネスが軌道に乗るまでは、資金を継ぎ込むばかりなのですから。本書の後半は成功物語というより、後発の弱小ウイスキーメーカーとしての悲哀を多く感じます。それでも「本物」にこだわり続けた竹鶴氏の姿勢が感動を呼ぶのです。数年前に余市醸造所を見学したことを、思い出しながら読みました。

2019/5