りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018-07-01から1ヶ月間の記事一覧

2018/7 女王ロアーナ、神秘の炎(ウンベルト・エーコ)

今月の1位に選んだのは、2016年に亡くなったウンベルト・エーコ氏の小説の中で、最後に翻訳出版された作品です。実は最後の小説は『ヌメロ・ゼロ』なのですが、そこでも「記憶こそ私たちの魂」と言い切った著者が、記憶の回復をテーマとして扱った自伝…

探偵はひとりぼっち(東直己)

札幌版ハードボイルドの「ススキノ探偵シリーズ」第4作です。「探偵はBARにいる 2 ススキノ大交差点」として、映画化されています。 物語の発端は、主人公がいきつけのオカマパブのマサコちゃんが、めった打ちにされて殺された事件。念願だったTVの素…

消えた少年(東直己)

映画化された『探偵はバーにいる』にはじまる、札幌版ハードボイルド「ススキノ探偵シリーズ」の第3作です。 主人公は、札幌の歓楽街ススキノのバーを拠点とし、借金の取立てやもめ事の仲裁で小銭を稼いでいる便利屋の男性。かつて男たちに絡まれていたとこ…

イッツ・オンリー・トーク(絲山秋子)

2003年に文学界新人賞受賞を受賞した、著者のデビュー作です。精神を病んで新聞社を退社し絵を描いているという主人公の優子は、躁鬱病で営業職から離れて小説を書いていた、当時の著者の略歴と重なっています。 下町でも山の手でもない、「なぜか肌にし…

女王ロアーナ、神秘の炎(ウンベルト・エーコ)

2016年に亡くなったイタリア文学界の巨匠が2004年に著した作品は、限りなく自伝に近い超小説でした。1931年に生まれた著者と同世代のヤンボは、おそらく脳溢血と思える事故のせいで、百科事典的な記憶には問題はないものの、個人的な記憶を失な…

スーラ(トニ・モリスン)

ノーベル賞作家である著者が、デビュー作『青い眼がほしい』に次いで書き上げた第2長編です。ボトムと呼ばれる貧しい黒人居住区で育った2人の少女の物語。 スーラが社会慣習の枠に収まらない奔放な少女に育ったのは、家庭環境によるのでしょう。愛ゆえに精…

ひとめあなたに…(新井素子)

山本弘さんの「ビブリオバトルシリーズ」の『世界が終わる前に』で、SF好きの主人公・空が紹介していた作品です。この作品が未読だったのは、SFの面白さを理解した頃に「この著者の作品はSFではない」と思い込んでいたせいでしょう。 もちろん、古典的…

ウは宇宙船のウ(レイ・ブラッドベリ)

山本弘さんの「ビブリオバトルシリーズ」の『君の知らない方程式』で、SF好きの主人公・空が紹介していたので再読してみました。頑張って、全16編を紹介してみましょう。 「ウは宇宙船の略号さ」 フェンスにしがみついて宇宙船の発射を見つめる少年の夢…

家宝(ズウミーラ・ヒベイロ・タヴァーリス)

水声社から「ブラジル現代文学コレクション」の1巻として出版された作品です。現在まで本書を含んで4冊出版されています。まだ『エルドラードの孤児(ミウトン・ハトゥン)』に続いて2冊めですが、どちらも現在主流の心地よい作品ではなく、何かザラッと…

通い猫アルフィーとジョージ(レイチェル・ウェルズ)

飼い主の急死で放浪生活に陥った末、二度と辛い境遇に陥りたくないと、複数の飼い主を持つようになった「通い猫アルフィー」のシリーズ3作目です。 ちょっとした奇跡を起こして結び付けたジョナサンとクレアの夫婦の家を本宅としながら、DV男や育児ノイロ…

シンプルな情熱(アニー・エルノー)

タイトル同様にシンプルな作品です。妻子ある若い東欧の外交官と不倫関係に陥った、離婚経験のある独身女教師が、自らの熱情を赤裸々に描写していく物語。もちろん、一人称の語り手である「わたし」は、著者自身の姿とぴったり重なっています。 「昨年の九月…

あきない世傳 金と銀4 貫流篇(高田郁)

シリーズ第4巻では、幸に大きな変化が訪れます。大阪天満の呉服屋「五鈴屋」の奉公人から、ダメ息子の4代目長男に嫁いだものの、夫はまさかの急死。商いに聡い一方で情に薄い5代目次男と再婚したものの、幸の商才を疎むようになっていた夫は、取引先の信…

ジャック・グラス伝 宇宙的殺人者(アダム・ロバーツ)

遥か未来の太陽系。ウラノフ一族を頂点とする厳格な階層制度の中で、人類の大半が貧困と圧政にあえいでいる時代に登場した「革命的扇動者にして宇宙的殺人者」のジャック・グラス。彼の行くところで生まれる解決不能な謎を描いた、SF冒険ミステリです。 お…

アインシュタインの夢(アラン・ライトマン)

スイス・ベルンの特許局技官であったアインシュタインが、特殊相対性理論の第一論文を完成させたのは、1905年6月のことでした。当時26歳であったアインシュタインが、論文の発想を得てからの2カ月間に「見たかもしれない夢」を現役物理学者が綴った…

トワイライト 哀しき新生者(ステファニー・メイヤー)

本編の『トワイライト3』で、悪役の吸血鬼ヴィクトリアが、主人公のベラへの復讐を果たすために凶暴な新生者を増産してカレン一族に挑む場面がありました。本書は、何も知らずに吸血鬼として「転生」させられた少女ブリーの視点から描かれた「外伝」です。 …

我らがパラダイス(林真理子)

多くの人が現在直面し、もしくは将来直面することになる介護問題をテーマとして、毎日新聞に連載された作品です。『下流の宴』で若者の格差問題を描いた著者は、「人生最大で最後の格差」をどのように描いたのでしょう。 主人公は、ごく恵まれた人だけが入居…

愛の深まり(アリス・マンロー)

「新潮クレストブックス」からの出版が多い著者の作品ですが、本書は渓流社からの出版です。1986年の作品なので、『木星の月』と『善き女の愛』の間に書かれた、円熟期の作品ですね。時系列を行き来しながら過去の後悔や誤解を冷静に綴って行く独特のス…

君の知らない方程式 BISビブリオバトル部(山本弘)

不思議系SF少女の空を中心に、ノンフィクション命の武人、大阪弁熱血部長の聡、キュート下級生男子の銀、サイエンス系美少女の明日香、ハーフ腐女子のミーナらが活躍する、「BIS」こと「美心国際学園」の「ビブリオバトル部シリーズ」第4作です。この…

紅霞後宮物語 第6幕(雪村花菜)

シリーズ第6巻ではついに隣国・康との戦が始まってしまうのですが、行軍元帥に選ばれたのは後に軍人皇后として名を挙げる小玉ではなく、無難な人選ともいえる班将軍でした。本巻では、班将軍の戦死によって、ついに小玉が国の運命を背負って戦場へと赴くこ…

救い出される(ジェイムズ・ディッキー)

村上春樹氏と柴田元幸氏が「もういちど読みたい!」という思いで実現させた「村上柴田堂翻訳シリーズ」の1冊です。これで全10冊読み切ってしまいましたが、素晴らしい企画なので続編を期待したいところです。 本書は1970年にアメリカで発表され、翌年…

すばらしい新世界(オルダス・ハクスリー)

ディストピア小説の先駆である本書は、並び称されるオーウェルの『1984年』より17年も早い1932年に発表されたものですが、いまだに色褪せてはいません。 未来の絶滅戦争が終結した後に、人類が創設した安定至上主義の世界が舞台になっています。人…

東の果て、夜へ(ビル・ビバリー)

ロスで麻薬密売所の見張り役を務めていた15歳の少年イーストは、警察の手入れの通報に失敗したことから、ラストチャンスとして新たな任務を言い渡されます。それは、法定で証人に立つ予定の裏切り者を、休暇先で始末するというものでした。足がつきやすい…

太陽の棘(原田マハ)

戦後間もない頃に、東京美術学校出身の画家を中心に誕生して「ニシムイ美術村」。肖像画や風景画の依頼に応えて生活の糧を得ながら、戦争によって荒廃した沖縄文化や美術の復興に奔走していた画家たちと、沖縄基地に勤務した米軍の若き軍医・エドワードの交…

折りたたみ北京(ケン・リュウ編)

『紙の動物園』や『母の記憶に』などのSFを欧米で評価されている編者が、もはや欧米と遜色ない現代中国SFの最前線の作品を紹介するアンソロジーです。中国的な題材がむしろ新鮮に感じますが、政治批判として受け取るのは「正しい読み方」ではないようで…

エーゲ海に強がりな月が(楊逸)

中国のハルビンから留学生として来日してバイトをしながら日本語を学び、中国語教師などの職を経験した後に作家となった著者は、日本語以外の言語を母語とするはじめての芥川賞を受賞しています。彼女が描く小説には、日本を外側から見ているような視点が感…

イレーナ、失われた力(マリア・V・スナイダー)

イクシア国の最高司令官の毒見役となって死刑を免れた日から8年。今では唯一の「ソウル・ファインダー」として、敵対するイクシアとシティアの両国の間を繋ぐ連絡管を努めるイレーナに、新たな試練が襲い掛かります。何者かに毒矢で射られたことをきっかけ…