りぼんの読書ノート

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ジャック・グラス伝 宇宙的殺人者(アダム・ロバーツ)

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遥か未来の太陽系。ウラノフ一族を頂点とする厳格な階層制度の中で、人類の大半が貧困と圧政にあえいでいる時代に登場した「革命的扇動者にして宇宙的殺人者」のジャック・グラス。彼の行くところで生まれる解決不能な謎を描いた、SF冒険ミステリです。

おもしろいのは冒頭に「読者への挑戦状」があること。3編の殺人ミステリにおいて、犯人は全てジャック・グラスであることが明かされているのです。読者には、彼が犯した殺人の動機と手段を解き明かすことが求められているのです。

脱出することが不可能な小惑星の監獄から、ジャックはどのようにして逃れたのか。地球の重力下では持ち上げることができない凶器を、ジャックはどのように扱ったのか。密室のどこにも弾丸が見つからない凄まじい威力の銃撃は、どのように行われたのか。これは絶対に解けませんね。動機はともかく、手段が完全にSFなのですから。全ては、物理的に不可能である超光速を、どうやって実現するかにかかっているのです。

ウラノフ一族の支配体制を支える5つのMOHファミリーのひとつ、アージェント家の後継者令嬢で、16シアのダイアナが探偵役。もっとも彼女を助けて真実に導く者が、変装したジャックという点は、フェアではありませんね。しかし彼の狙いは、ダイアナを助けてウラノフ一族の支配を覆すことなのです。冒頭の「挑戦状」を書いたワトソン役が誰なのか推理するのも、楽しい作品でした。

2018/7