りぼんの読書ノート

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十二人の死にたい子どもたち(冲方丁)

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著者初のミステリは、映画「十二人の怒れる男」をモチーフにした作品でした。

廃業した病院に集まった12人の少年少女たちは、あるサイトで知り合った自殺志願者たち。彼らはすぐに病院の一室で一緒に安楽死を迎える予定でした。しかし彼らの前に、すでに1人の少年がベッドに横たわっていたのです。彼は何者なのか。この中に殺人者がいるのか。このまま計画を実行して良いのか。多数決を取った結果は、「全員一致」ではなかったのです。そして議論が始まります。

12人のメンバーは、(1)自殺した病院長の息子のサトシ、(2)イジメにあっているケンイチ、(3)アイドルへの殉死を願うミツエ、(4)ステージママに反抗するアイドルのリョウコ、(5)難病のシンジロウ、(6)父親に保険金を残そうとするメイコ、(7)安楽死の権利を主張するアンリ、(8)抗精神剤漬けにされたタカヒロ、(9)いじめっ子を事故死させてしまったノブオ、(10)非人間的な親に反抗するセイゴ、(11)不治の病に罹ったマイ、(12)交通事故の責任と後遺症に苦しむユキ。

多種多様な人物像と自殺への動機は世相を反映していますが、緊迫する議論の過程を楽しむように物語は進行します。裏方に徹するサトシ。賢者的に事象を整理するシンジロウ。仕切ろうとして墓穴を掘ってしまうメイコ。強い意志と理論を持つアンリ。粗暴だが時に本質を衝くセイゴ。おバカキャラで掻き回すマイ。ひたすら無に徹しようとするユキ・・。まるで現代世界の縮図ですが、こんな中で「自由意志の尊重」と「全員一致の原則」は両立するのでしょうか。

ミステリなので、もちろん13人目の少年の謎は解かれます。しかし同時に明らかになるのは、この集りの真の目的でもあるのです。少年少女たちの自殺願望という重いテーマを扱った作品ですが、ラストには一筋の光も差し込んできます。

2017/6