りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

花野に眠る(森谷明子)

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東京郊外の秋葉図書館で新人として入った今居文子の司書生活も2年目に入りました。れんげ野原のまんなかでの続編となる、図書館ミステリの第2弾です。今回も季節感あふれた表題を持つ5話構成ですが、全体を通じてひとつの謎を解いていく二重構造の作品になっています。

「第一話 穀雨
図書館の地主である秋葉家の孫の少年・佐由留が、GW中にひとりで祖父母のもとを訪ねてきた理由は、両親が離婚協議中だったから。近くの図書館で読んだ『ある小馬裁判の記』は身につまされてしまいます。それは1頭の小馬を貧しい少年と体の弱い少女が取り合う話だったのです。少年はほかに、自分の記憶にある本をリクエストするのですが・・。

「第二話 芒種
保育園の「ブックトーク」演者として招かれた文子がお礼に頂いた菓子折りから、剣花菱紋が掘られている小さな石が出てきます。その石にはどういう由来があり、どうして図書館までたどり着いたのでしょう。

「第三話 小暑
秋庭家敷地内の山で起こった土砂崩れの中から、一体の白骨が出現します。事件性はないと判断されたものの、それは誰だったのでしょう。第1作で語られた、秋葉爺さんの少年時代の「おんじ」の謎めいた記憶と、元教授の老いらくの恋事件が、意外な形で結びついてきます。

「第四話 白露」
かつて広大な秋葉家の敷地内には神社があり、「山の先生」と呼ばれる老人が神主をしていたそうです。そこの養女であった咲子さんが、秋葉爺さんの初恋の相手だったのですね。しかし「山の先生」は、最後まで同一人物だったのでしょうか。

「第五話 寒露
GWの時に佐由留に絵を教えた老女は、「山の先生」の養女で老舗和菓子店に嫁いでいた咲子でした。彼女は皆の前で「あの白骨は私が埋めたものです」と告白します。そして語られる「山の先生」と「おんじ」と咲子の物語は、数奇な驚きに満ちたものだったのです。

図書館が舞台なので多くの図書が登場しますが、ミステリ部分は「過去の物語」ですね。しかし著者が後書きで語っているように、「図書館は過去と親和性が高い」のです。資料も記憶も過去に属するものですし。

2017/6