りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

れんげ野原のまんなかで(森谷明子)

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紫式部三部作』の印象が強い著者ですが、かなり早い時期から現代ものも書いています。本書は、地方都市の街外れにある図書館を舞台にして「日常の謎」を扱うミステリ。語り手は新人司書の今居文子で、謎解き役は先輩男性司書の能勢。読書量豊富な先輩女性司書の日野はヒントを出す役割。

霜降―花薄、光る」
どうも図書館で度胸試しが流行っているらしく、文子は、閉館間際に隠れて居残ろうとする小学生に手を焼いています。なぜか奇妙な落し物も頻発。そして小学生3人の行方不明事件が起こるのですが・・。カニグスバーグのクローディアの秘密は参考になるのでしょうか。

冬至―銀杏黄葉」
図書館には常連さんがいるものですが、文子は、元大学教授の寺田さんが来訪すると緊張してしまいます。一方で、毎週水曜日に病院帰りに立ち寄る深雪さんというお年寄りが謎めいたコピーを発見し、洋書の絵本コーナーの配列が乱される事件が発生。本を利用した連絡とは、奥ゆかしくて、微笑ましいのですが・・。

立春―雛支度」
なんと図書館の貸出記録が流出・・するわけありませんよね。実は別人の名前で作った会員証で、高価な美術書を借り出して盗難しようという目論みだったのです。個人情報の入手経路から、犯人の目星はついたのですが・・。ストーリーとは関係ありませんが、ここに登場した「図書館浴」という言葉はいいですね。

「二月尽―名残の雪」
大雪の日に当番になった文子は、近隣の地主で顔なじみの秋葉老人宅に強引に宿泊させられてしまいます。そこで聞いた、秋葉氏が少年時代に見たという雪女の謎を解いてくれたのは能勢でした。226事件があった年の出来事だそうです。

清明―れんげ、咲く」
前年秋に、図書館周辺のススキを刈って蒔いたれんげそうの花畑は、新しい名所になったようです。そんなある日、既に廃校になっていた中学校の蔵書が図書館で発見されます。その本『床下の小人たち』は、映画「借り暮らしのアリエッティ」の原作ですね。その背景には、取材に来た記者の元同級生が絡んでいたのですが・・。

能勢の言葉「図書館には本しかない。でも本だけはある」は、決め台詞ですね。読書家としては本が関係する話は楽しいのですが、著者にはぜひ「宇治十帖」をテーマにした紫式部シリーズ』の続編を描いて欲しいものです。

2017/6