りぼんの読書ノート

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イッツ・オンリー・トーク(絲山秋子)

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2003年に文学界新人賞受賞を受賞した、著者のデビュー作です。精神を病んで新聞社を退社し絵を描いているという主人公の優子は、躁鬱病で営業職から離れて小説を書いていた、当時の著者の略歴と重なっています。

下町でも山の手でもない、「なぜか肌にしっくりなじむ」蒲田に引っ越してきた女性のひと夏の物語。引っ越しの朝に男に振られ、都議選に立候補したED障害の元同級生と再会し、元ヒモのダメ男である従弟に居候され、鬱病仲間のヤクザや、相互了解の痴漢と出会って、結局はみんな去って行くという物語。タイトルは、「全部ムダ話さ」と歌い飛ばす、キング・クリムゾンの「Elephant Talk」の曲で繰り返される歌詞です。

とりたててストーリーなどないのですが、複雑になってもおかしくない人間関係を、あくまでも表面的なものとしてとどめる主人公の生き方が、妙に魅力的です。多くは語られませんが、彼女の性格形成の背景には、かつての友人の死という出来事があったのであろうことが、推測されます。

併録されている「第七障害」は、馬術障害競技中の転倒で愛馬を死なせてしまった女性が、上京してかつての恋人の妹と同居した後に、かつての乗馬仲間の男性と再会する物語。愛馬に対する罪の意識が癒されていく過程を描いた作品ですが、表題作と比べると表面的に思えてしまいます。何でも即興で鼻歌にしてしまう同居人の女性は印象に残りますが、男たちが類型的なせいでしょうか。

2018/7