りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

心淋し川(西條奈加)

日本ファンタジー大賞を受賞した破天荒な物語『金春屋ゴメス』でデビューした著者は、本格時代小説の書き手として大成するに至りました。谷根千あたりのうら寂しい長屋を舞台とする連作小説である本書は、2020年下半期の直木賞受賞作です。人生という川のどん詰まりでもがき苦しみながらも、懸命に生きる人々に、かすかな光が差すことがあるのでしょうか。

 

「心淋し川」

酒浸りの父親と愚痴ばかりの母親を持って、将来に何の期待も持てない針子のちほの心情そのままに、どこにも行きようがなく芥ばかりを溜め込んで淀みを増すばかりの「うらさびしがわ」。親しく声をかけてくれる上絵師との淡い恋心も行き場がないのですが・・。

 

「閨仏」

醜女ばかり4人もの妾を同じ長屋に囲っていたケチな爺さんが急死。とうに寵愛を失っていた最年長のりきは、木製の張形に地蔵の顔を彫るという手慰みを持っていたのですが、どうやらそれが4人の女を救うことになるのかもしれません。

 

「はじめましょ」

先輩料理人からの虐めが理由で一流料亭を辞め、心町で安飯屋を開いてい与吾蔵は、見知らぬ少女の手毬唄で過去の過ちを思い出します。それはかつて彼が捨てた仲居がくちずさんでいた唄だったのです。

 

冬虫夏草

30歳にもなって我儘ばかり言う不具の息子の世話をする母親。かつて大店の女将と跡継ぎであった母子は、全てを失って不幸のどん底にいるとしか、傍目には見えないのですが・・。

 

「明けぬ里」

場末の根津遊郭から身受けされたものの、落ち着いた先は心町のボロ屋で、亭主は博打好き。身籠ったことを誰にも伝えられずにいない女は、吉原花魁なみの待遇を受けていたナンバーワン遊女に再会し、彼女の境遇に嫉妬するのですが・・。

 

「灰の男」

ここまで狂言回し役であった長屋差配の茂十は、かつて八丁堀の諸色掛同心でした。彼がここに住み着いたのは、息子の仇でもある夜盗の首領がいたせいでしたが、かつての悪党は惚けて燃え尽きていたのです。

 

2022/11