りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2016-03-01から1ヶ月間の記事一覧

2016/3 長いお別れ(中島京子)

3月にアップしたレビューの半分以上は、2月の長い出張の間に読んだ本です。だから、文庫本の比率が高いのです。2位にした『世紀の空売り』を映画化した「マネー・ショート」を見ました。原作を読んでいたせいで、よく理解できました。 1.長いお別れ(中…

役小角絵巻 神変(山本兼一)

7世紀後半に実在したとされる修験道の開祖・役小角を、同時期に中央集権の国造りを進めた大和朝廷に対する反逆者として描いた伝奇小説です。 当時の支配者は、女帝持統。実子・草壁皇子を失い孫の軽皇子(後の文武天皇)に皇位を継がせようとする一方で、亡…

整形美女(姫野カオルコ)

旧約聖書の「カインとアベル」とは、アダムの息子カインが、神に愛された弟アベルを殺害して荒野に追放される物語。本書に登場する「甲斐子と阿倍子」は、彼らの分身です。 完璧な容貌を持つ絶世の美女であった甲斐子は、完全さが不幸を招くことに気づいて、…

ふたり十兵衛(谷津矢車)

時は三代将軍家光の治世。泰平となったはずの天下で大乱を目論む悪人と対峙するのは、隻眼の剣豪・柳生十兵衛・・とくれば、講談活劇の世界。 しかし本書に登場する十兵衛は、とうの昔に剣を手放しており、すっかり頭脳派の読書男子。では戦うのは誰なのか。…

そして父になる(是枝裕和/佐野晶)

2013年に製作された同名の映画のノヴェライズです。 主人公は、学歴も仕事も家庭も手に入れ、自分が「人生の勝ち組」だと信じて疑っていない良多。しかし、病院からの突然の連絡で、6年間育てた息子は病院で取り違えられた他人の子供だったことを知らさ…

世紀の空売り(マイケル・ルイス)

副題は「世界経済の破綻に賭けた男たち」。リーマンショックの直前、世界中がアメリカの住宅バブルに酔っていた2000年代半ばに、そのまやかしをいち早く見抜いていた男たちの姿を描いたノンフィクションです。 サブプライムローンの破綻が、なぜ巨大な投…

トライアル(真保裕一)

公営ギャンブルレースの場を舞台にして、一瞬の勝負に挑むプロフェッショナルたちの世界を描いた連作短編集です。とはいえ本書のテーマは、決して華々しい勝負の場ではありません。背景には勝負の世界がありながら、家族や同僚との人間関係に悩むレーサーた…

ゼロからのMBA(佐藤智恵)

貯金も経済知識もない「ゼロからのMBA挑戦」とのことですが、全然ゼロではないのではないかというのが、正直な感想。だって著者は、帰国子女、東大卒、NHK在職というキャリアの持ち主なのですから。 とはいえ、会社を辞めてMBAに挑戦するという決意…

マドンナ(奥田英郎)

日本で一番大変な日常をすごす「課長さん」たちを主人公に据えた短編集です。モー娘のなっちや、ロッテの黒木投手なども登場しますので、時代は2000年代の前半でしょう。しかし、ここに登場する「課長さん」たちは、かなり現実世界からずれているようで…

クラーケン(チャイナ・ミエヴィル)

『都市と都市』や『言語都市』など、物語の構造が明らかにされるまでは超難解ながら、素晴らしい小説を生み出し続けている著者の作品です。本書もラスト数章まで、派手な展開ながら意味不明でした。 主人公は、ロンドンの自然史博物館でキュレーターをしてい…

ファイアボール・ブルース2(桐野夏生)

凛とした女子プロレスラー・火渡抄子の姿を弱小レスラーの付人・近田の視点から描いた『第1作』は、ミステリ要素も絡ませた長編でしたが、続編である本書は連作短編集になっています。 「入門志願」 場外乱闘の際に絡んできた2人の観客は、どちらも入門志…

ファイアボール・ブルース(桐野夏生)

女子プロレスを題材にした小説です。著者が後書きの冒頭に据えた「女にも荒ぶる魂がある」というフレーズがいいですね。 主人公は「ファイアボール」のニックネームを持つ、女子プロレスラーの火渡抄子。ストイックな元アマレス王者で実力はナンバーワンなが…

バンクーバー朝日(テッド・Y・フルモト)

バンクーバーで白人による排日暴動が起きたのは、1908年のこと。その直後に誕生した日系人野球チーム「バンクーバー朝日」が、白人チーム中心のリーグ戦に参戦して、ついには優勝を果たすまでの物語。 過酷な労働と貧困の中にあり、苛烈な人種差別に苦し…

螺旋階段のアリス(加納朋子)

脱サラ探偵・仁木の前に突然現れた、アリスに憧れる美少女の助手・安梨沙。こんな2人が、一見不思議に思える日常的な事件を解決していく物語。『不思議の国のアリス』の世界を散りばめた連作短編集ですが、一番の謎は、安梨沙の正体だったのです。 「螺旋階…

グレイヴディッガー(高野和明)

2001年に『13階段』でデビューした著者の第2作です。2011年に『ジェノサイド』 で再ブレークしたことは記憶に新しいのですが、その萌芽は既に本書にあったようです。 タイトルの「グレイヴディッガー」とは「墓堀人」のこと。復讐心から巨悪を付…

長いお別れ(中島京子)

『長いお別れ』といっても、チャンドラーではありません。少しずつ記憶を失くしていく認知症のことを、アメリカでこう表現するようです。長く認知症を患っていた実父を亡くした著者の、実体験を踏まえた小説です。 かつて都立高校の校長や公立図書館長を務め…

ブリリアンス(マーカス・セイキー)

総人口の1パーセントが特殊能力をもつ「超能者」として生まれるようになった世界。彼らの特殊能力は、「X-MEN」のような派手なものではなく、高度なパターン分析力のようなものなのですが、侮ってはいけません。株価の動向を読みっとって株式市場に破…

一八八八切り裂きジャック(服部まゆみ)

19世紀末のロンドンを恐怖に陥れた娼婦連続殺人事件。医学留学生の柏木薫と、ロンドン警視庁に派遣されていた鷹原光が、「切り裂きジャック」の事件に関わっていく物語。『レオナルドのユダ』と同様、歴史に題材を採ったミステリです。 同時期にベルリンに…

ムシェ 小さな英雄の物語(キルメン・ウリベ)

亡くなった親友に「さあ、これがある英雄の物語だ、僕の最愛の友よ」と、捧げられた作品です。『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』の著者であるバスクの詩人が描いた「小さな英雄」とは、どのような人物だったのでしょう。 スペイン内戦下の1937年。ゲ…

スパイラル(真山仁)

著者の大ヒットシリーズ『ハゲタカ』の主人公で事業買収を得意とする鷲津のライバル役が、事業再生家の芝野です。本書は、その芝野を主役に据えたスピンアウト作品。時期的には、中国が日本の代表的自動車メーカーに買収を仕掛ける『レッドゾーン』と、リー…

名画で読む新約聖書(山形孝夫/山形美加)

古典西洋絵画を鑑賞するためには聖書の知識は必須ですが、サイドストーリーになると自信がないのです。徳島の大塚国際美術館で多くの複製陶画を見てきたのを機に、名画を用いてキリストの生涯を紹介した本書を手に取って見ました。 キリストの生涯をざっくり…

破落戸(諸田玲子)

「破落戸」と書いて「ごろつき」と読みます。著者が15年かけて書き続けているシリーズの第5作ですが、『第1作:あくじゃれ瓢六』から『第3作:べっぴん』までが「シーズン1」。続く『再会』と本書が「シーズン2」になるのでしょう。 大火でお袖を失っ…

オリンピア(沢木耕太郎)

1998年に上梓された本書の副題は「ナチスの森で」。1936年のベルリンオリンピックをテーマにしたノンフィクションであり、記録映画の傑作「オリンピア」を制作したレニ・リーフェンシュタールへのインタビューと、大会に参加した日本選手団の記録か…

殿様の通信簿(磯田道史)

『武士の家計簿』の著者が、元禄時代の大名243人の人物評価を記した『土芥寇讎記』のエッセンスを紹介した作品です。『土芥寇讎記』とは、幕府隠密による各藩大名たちの素行調査記録とも言われていますが、実態は謎だとのこと。 「徳川光圀」 水戸黄門の…