りぼんの読書ノート

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クラーケン(チャイナ・ミエヴィル)

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都市と都市言語都市など、物語の構造が明らかにされるまでは超難解ながら、素晴らしい小説を生み出し続けている著者の作品です。本書もラスト数章まで、派手な展開ながら意味不明でした。

主人公は、ロンドンの自然史博物館でキュレーターをしているビリー。巨大ダイオウイカの標本が水槽ごと消え失せていることに気づいたビリーに、現代の魔女であるキャスを含む魔術担当の刑事たちが接触してきます。彼らによると、ダイオウイカのことを伝説の海獣クラーケンとして崇めているカルト教団があるというのです。

しかし彼らは犯人ではありませんでした。ビリーは、博物館の警備員に身をやつして聖なるダイオウイカを見守っていたデインと協力して神体の捜索にあたります。最初の試験管ベイビーとして生を受けたビリーを護るのは、博物館に並ぶガラス瓶入りの標本が精霊化した記憶のエンジェルたち。

物語は、謎めいた登場人物たちとともに、果てしない混沌に入り込んで行きます。古代エジプトの副葬品人形でありながら、主人たちに反旗を筆替えした霊的存在のワティ。裏ロンドンの全てに精通して、ロンドンの構築物を自在に操るロンドンマンサー。あらゆる物体を小さく折りたたむ能力を持つ折紙師のフーパー。スター・トレックに登場する転送能力を有するサイモン。自分を他人の知り合いに見せる能力を持つジェイスン。17世紀から生き続ける2人組の暗殺者、デインとサビー。

やがてビリーらは、裏ロンドンにおける2人の巨悪である、刺青として存在しながら多くの手下を持つタトゥーと、火葬にされた灰からインクとして生き続けるグリザメンタムとの対決を余儀なくされるのですが・・。まさか、インク男の企みがダイオウイカの墨との結合という形で結びついてくるとは思いませんでした。

ただしここまでなら、「墨=インク=文字=小説」という「メタフィクション落ち」。しかし、著者の目論みには、さらにその裏があったのです。自然史博物館に保存されている「ダーウィン・コレクション」が、ここで効いてきます。ラストは壮大な「進化論が関係したアポカリプス」だったのですね。構成が複雑であるほど、著者の意図がわかったときの感動は大きいのです。

2016/3