りぼんの読書ノート

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ファイアボール・ブルース2(桐野夏生)

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凛とした女子プロレスラー・火渡抄子の姿を弱小レスラーの付人・近田の視点から描いた第1作は、ミステリ要素も絡ませた長編でしたが、続編である本書は連作短編集になっています。

「入門志願」
場外乱闘の際に絡んできた2人の観客は、どちらも入門志願生だったのです。素人2人の度胸の良さに感心した近田でしたが、火渡は真相を見抜いていたようです。要は「やる気」なんですけれどね。

「脅迫」
近田と同期ながら、美人レスラーということで人気をあげてきた与謝野に、脅迫状が届きます。与謝野が背後から針を刺されるという事件が起き、女子レスラーたちは犯人捜しに乗り出すのですが・・。

「リングネーム」
鹿田は、中堅レスラーの難波から、昔のリングネームを継いで欲しいと依頼されます。ただし条件は、火渡しに相談せずにひとりで決めること。そんな時、若手レスラーが先輩と喧嘩して寮を飛び出すという事件が起こるのですが・・。近田は試されたのですね。

「判定」
火渡がタイトルを失うことになったのは、疑惑の判定のせいでした。背景には色々あったようなのですが、火渡が気に入らなかったのは、そのレフェリーの正念場の在り方だったのです。

「嫉妬」
美人レスラーの与謝野は、ファンクラブができるほど人気が出てきたせいで、仲間たちから浮いてしまいました。ある事件をきっかけに与謝野は再び仲間から受け入れられるようになるのですが、それは彼女の狂言だったようです。同期の与謝野のために奔走した近田だったのですが・・。

「グッドバイ」
同期の与謝野に利用された悔しさが晴れないなか、近田は火渡から付人を変えると言い渡されます。闘志を失って引退を決意した近田に、火渡は最後の試合の相手をかってでるのですが・・。

「近田によるあとがき」
女子プロレスから引退して5年後、近田は火渡との最初で最後の再会について語ります。ある大事件が起きて、初めて弱気な姿を見せた火渡に駆け寄った近田は、彼女から拒絶されてしまったのです。近田は、その日が自分の本当の引退だったと気づくのでした。

後半の3作がいいですね。女性版ハードボイルド路線から脱皮した後の村野ミロ・シリーズのような深みを感じます。『OUT』ダークの間に書かれた作品ですから、それも当然のことですね。

2016/3