りぼんの読書ノート

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ファイアボール・ブルース(桐野夏生)

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女子プロレスを題材にした小説です。著者が後書きの冒頭に据えた「女にも荒ぶる魂がある」というフレーズがいいですね。

主人公は「ファイアボール」のニックネームを持つ、女子プロレスラーの火渡抄子。ストイックな元アマレス王者で実力はナンバーワンながら、ショーアップや人付き合いが苦手なために、弱小団体にしか所属できていません。そんな彼女が、リング上で活躍するだけでなく、対戦した外人レスラーの失踪事件を巡ってバトルを繰り広げる物語。

「凛として美しい」火渡抄子を描くために著者が創造した語り手が、彼女の付人である近田です。戦績は0勝全敗。後から入った新人にも負けるほどの弱さで、美人でもないので人気もない。そんな近田は、火渡を神のごとく崇める一方で、自分の情けない状況に歯ぎしりし、経営の思わしくない団体の中でのポジションに一喜一憂するのです。

ミステリ要素を含むものの、本書のベースは「近田の成長物語」なのでしょう。火渡がわかっているらしい「近田が勝てない理由」に自分自身が気付いていく過程は、火渡が失踪した外人レスラーの消息を気にかける理由に思い至る過程と重なっていきます。「自分自身が近田」であるという著者が描く「弱者の視点」こそが、本書の魅力ですね。

著者は、火渡のモデルとして、ある実在する女子プロレスラーの名前をあげていますが、それは聞かない方がよかったかな。私の中での火渡のイメージは、ハリウッド女優のヒラリー・スワンクでしたので。なお、文庫本の解説者が、亡き鷺沢萌であったことには、胸を衝かれました。

2016/3