りぼんの読書ノート

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オリンピア(沢木耕太郎)

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1998年に上梓された本書の副題はナチスの森で」。1936年のベルリンオリンピックをテーマにしたノンフィクションであり、記録映画の傑作「オリンピア」を制作したレニ・リーフェンシュタールへのインタビューと、大会に参加した日本選手団の記録から成り立っています。

インタビュー当時90歳を超えていたレニ・リーフェンシュタールの部分が、ボリュームは少ないものの、印象深い内容でした。ダンサーで女優でもあったレニの初監督作品に惚れ込んだヒトラーが、ナチス党大会
ドキュメンタリー映画製作を依頼した情景。「第1部:民族の祭典」と「第2部:美の祭典」からなる「オリンピア」が、実は100%記録映像ではなく、再現シーンなども使っていること。そしてレニのヒトラーに対する個人的な思い・・。ただし著者は、高齢のレニに気を使ったのか、100歳を超えてまで現役映画監督であり続けた彼女の激しさを、引き出し切れなかったようにも思えます。

本書の大半を占める日本選手団の記録は、田島直人三段跳)、孫基禎(マラソン)、前畑秀子(平泳ぎ)、葉室鐵夫(平泳ぎ)、寺田登(自由形)などの金メダリスト、銀・銅メダルを分け合った西田修平と大江季雄(棒高跳)らのメダリストばかりではありません。期待に応えられなかった敗者たちや、参加してはじめて世界水準を知った体操、レスリング、バスケットボール、サッカー、ホッケーなどの選手たちにも、著者の目は向けられます。

さらには、シベリア鉄道などを使った当時の移動、新聞報道の白熱したバトル、「実況中継」ならぬ「実感放送」などの舞台裏事情。そして、次の1940年に予定されていた東京オリンピックが幻に終わり、戦場に散った選手たちも少なくなかった事実に触れて、このくだりは終わります。既に「歴史」となってしまった時代の声を、ぎりぎり1990年代に拾い集めて作品にしあげた力作です。

2016/3