りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2014-04-01から1ヶ月間の記事一覧

2014/4 小説フランス革命(佐藤賢一)

構想を抱いてから10年。第1巻の刊行からも6年。バスティーユ襲撃前夜からロベスピエール処刑までを描いた全12巻の壮大なシリーズがついに完結しました。佐藤賢一さんの『小説フランス革命』です。革命の理想が現実と乖離していく過程を、複数の視点か…

流転の魔女(楊逸)

居酒屋で時給900円のバイトをしながら、法律の勉強にはげむ中国人女子留学生・林杏。弁護士である同級生の父親から中国人容疑者を接見する際の通訳を依頼されて、高額報酬を手に入れます。といっても、一回1万5千円が数回。それでも時給に直すと400…

ツーリストの帰還(オレン・スタインハウアー)

『ツーリスト』とは、CIAが世界中に放っている極秘のエージェントたちのこと。前巻である事情から「自首」したミロは、釈放後に復帰を果たしますが、妻や娘との関係はなかなか元には戻りません。 そんな中、ドイツ国内で移民の少女殺害を命じられたミロは…

インフェルノ(ダン・ブラウン)

世界的ベストセラー作家となったダン・ブラウンの新作の舞台は、フィレンツェからベネチア、そしてイスタンブール。もちろん「宗教象徴学」の対象物が嫌というほど溢れている街ばかりです。今回の謎の鍵となるものは、ダンテの『神曲』と、その背景にあった…

鷲たちの盟約(アラン・グレン)

大統領選に勝利して就任目前だったルーズベルトが暗殺されてから10年後の1943年。大衆迎合主義者であったヒューイ・ロングが大統領となっていたアメリカは、未だに大恐慌から立ち直れず、欧州をほぼ制圧したヒットラーと盟約を結ぼうとしていました。 …

正妻 慶喜と美賀子(林真理子)

中級の公家から最後の将軍となった徳川慶喜に嫁ぎ、激動の幕末期を乗り越えて最後まで添い遂げた美賀姫とは、いったいどんな人物だったのでしょう。 林さんが描く少女時代の美賀姫は、明朗快活なお転婆。名家の娘の身代わりとしてハンサムな慶喜に嫁ぐことと…

村上海賊の娘(和田竜)

大坂本願寺を包囲する織田軍と海路からの補給を請われた毛利軍の「木津川口海戦」を小説化するに際して、著者は魅力的な人物を持ち出してきました。主人公の名は村上景(きょう)。毛利軍の主力であった村上水軍の中心人物・村上武吉の娘です。 何と行っても…

緑の毒(桐野夏生)

ストーリーはシンプル。妻の浮気への嫉妬から連続レイプ犯になってしまった中年開業医の転落劇。章ごとに視点を変えていることは、物語を重層的にする反面で、散漫な印象も与えます。雑誌『野生時代』」に不定期連載であったせいでしょうが、未解決のまま残…

盆栽/木々の私生活(アレハンドロ・サンブラ)

1975年生れのチリの若い作家による小説は、南米文学らしい幻想性も、独裁政権に対する激しい抗議精神もない。淡々とした語り口に意表を衝かれるかもしれません。タイトルである「盆栽」のような、ミニマリズム的な世界が広がっているのです。 「盆栽」 …

オリンポスの神々と7人の英雄 3.アテナの印(リック・リオーダン)

「シーズン2」の物語も佳境に入ってきました。オリンポス神の滅亡をもくろむガイアの目覚めを前にして、肝心の神々は統合失調症状態。しかもギリシャ系とローマ系のハーフは一触即発状態。 その背景には、ローマ時代に軍神の役割を奪われて、穏健なミネルウ…

とんずら屋請負帖2 仇討(田牧大和)

女であることを隠して伊勢崎町の「松波屋」で船頭を務める弥生の秘密は、妾腹ながら某藩藩主のご落胤であること。前作『とんずら屋弥生請負帖』では、お家騒動に巻き込まれてしまいまいた。船宿の秘密は、極秘の逃亡を助ける裏稼業を営んでいること。 そんな…

聖なる怠け者の冒険(森見登美彦)

祇園祭の宵山の夜を舞台に繰り広げられる冒険譚は、『宵山万華鏡』の不思議なテイストに『有頂天家族』のタヌキを織り込んで、『夜は短し歩けよ乙女』や『四畳半神話大系』のエッセンスを取り込んだ雰囲気に満ち、いわば著者の世界観をテンコ盛りにしたよう…

嘆きの橋(オレン・スタインハウアー)

先に読んだ『極限捜査』が、共産圏に取り込まれてソ連の監視と統制の下で生きざるを得なかった、東欧の架空の国を舞台にした連作警察小説「ヤルタ・ブールヴァード」シリーズの第2作というので、第1作を読んでみました。 ソ連の封鎖によって飛び地となった…

貧乏お嬢さま、メイドになる(リース・ボウエン)

ヴィクトリア女王の曾孫ながら、王位継承順位は34番目。スコットランドの古城で破産寸前の兄ビンキーは妻のフィグに頭が上がらず、小遣いもくれません。気の進まない縁談を断ってロンドンに逃げ出したジョージーお嬢様は、一人暮らしを始めますが、とにか…

世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ(下川裕治)

「鉄道小説」というより「冒険小説」。ロシア東端のシベリアの果てにあるワニノから、欧州最西端のポルトガルのカスカイスに至る、中央アジアを横断しての列車の旅は、波乱万丈です。 言葉は通じない。切符の買い方もわからない。時刻表もない。時間通りに進…

小説フランス革命12 革命の終焉(佐藤賢一)

構想を抱いてから10年。『第1巻』刊行からも6年。全12巻の壮大なシリーズがついに完結しました。左派のエベールも、右派のダントンやデムーランも排除した、1793年春の大粛清によって開始されたジャコバン派の独裁政治が、1794年7月の「テル…

誰よりも狙われた男(ジョン・ル・カレ)

80歳を越えてなお、冷戦消滅後の世界における新しいスタイルのエスピオナージュを著し続けている巨匠が、『サラマンダーは炎の中に』や『ミッション・ソング』と同様に、アメリカを中心とする「テロとの戦い」のあり方に疑問と怒りを投げかけた作品です。 …

悪の法則(コーマック・マッカーシー)

現代アメリカを代表するノーベル賞候補作家である著者が、自ら映画会社に持ち込んだ脚本が本書です。リドリー・スコット監督と豪華俳優陣によって映画化されました。映画は未見ですが配役はイメージ通りであり、想像しながら読んだことを告白しておきましょ…

ときぐすり(畠中恵)

『まんまこと』シリーズの第4作となる本書は、前作 『こいわすれ』の衝撃的な事件から、主人公・麻之助が再生の兆しを見せるようになるまでが描かれます。 「朝を覚えず」 妻・お寿ずを失くしてから1年。麻之助は、覚めない夢の中でお寿ずの面影を追い続け…

三匹のおっさん ふたたび(有川浩)

還暦を迎えて老人扱いされることに我慢ならない3人の幼馴染仲間が繰り広げる「痛快シルバーアクション」のシリーズ第2弾。ゼネコンを定年退職してゲームセンターの嘱託となっている剣道師範のキヨ、居酒屋を息子夫婦に譲った柔道家のシゲ、電機関係の町工…

ひとりの体で 下(ジョン・アーヴィング)

物語は、下巻に入って怒涛のように流れ始めます。ミス・フロストとの別離。留学先ウィーンでの新しい出会い。ベトナム戦争やエイズ禍で次々と去って行く同年代の友人たち。その間「性的に不安であり続けた」ビリーは、自己を確立して作家へと成長していきま…

ひとりの体で 上(ジョン・アーヴィング)

アーヴィングさんの新作は、バイセクシュアルの老作家による回想記の形式で綴られます。例によって、本人は「本書は自伝ではない」と語っていますが、自伝的な変奏曲の一作であることは間違いありません。作中で引用されるシェークスピアの『テンペスト』を…

無垢の領域(桜木紫乃)

直木賞受賞後の第1作は、やはり道東を舞台にした孤独な男女の物語でした。 秋津龍生(42歳)。地域の書道界で著名であった母親から大いに期待されながら、中途半端な才能に苦悩する書道家。その母親も現在では半身不随で認知症も患っています。秋津家の家…

深紅の碑文(上田早夕里)

『華竜の宮』の続編です。大規模な海面上昇が起きてから500年。陸上と海上の民が同居する地球で、ホットプルーム爆発と全球凍結という未曾有の大災害が50年以内に起こると予測されます。滅亡を言い渡されたに等しい人類は、残された期間をどう生きたの…

はなとゆめ(冲方丁)

平安朝。絶対的権力者となるには天皇の外戚となることが必須条件であった時代。天皇の寵愛を勝ち得て世継ぎを生むために、后たちがサロンの充実を競った時代。平安文化の水準を高めた競争の最高峰に位置していたのが中宮定子のサロンでした。 14歳で3歳年…