りぼんの読書ノート

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正妻 慶喜と美賀子(林真理子)

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中級の公家から最後の将軍となった徳川慶喜に嫁ぎ、激動の幕末期を乗り越えて最後まで添い遂げた美賀姫とは、いったいどんな人物だったのでしょう。

林さんが描く少女時代の美賀姫は、明朗快活なお転婆。名家の娘の身代わりとしてハンサムな慶喜に嫁ぐこととなり、仲むつまじい夫婦生活を夢見るのですが、現実はそうはいきません。英邁ではあったものの人情の機微を理解できず、自分勝手キャラの慶喜には、すぐに失望させられてしまいます。

京都には妾にしたお芳を連れて行ったり、鳥羽伏見の敗兵を見捨てて大坂城から江戸に逃亡した際には自分の食事を気にしたり、明治になって駿河に逼塞してからもプチ大奥を作ったりと、慶喜はやりたい放題。それでも「冷たく嫌で腹が立つ」夫の性格を理解して、「面白いものをいっぱい見せてもらった」と感謝する正妻の姿は、意外と現代的なのかもしれません。

出戻りの身で妾となった、新門辰五郎の娘のお芳は、もっと分かりやすい形で現代的な女性です。、慶喜との関係を一時的なものと割り切り、駿河に移った途端に愛想を尽かし、新しい男を作って前将軍のところから去っていくのですから。

2人とも「大人の女性」なのです。林さんの小説ですから、もっとドロドロした関係を期待していたのですが、ちょっと外された感じが残りました。とりわけ美賀が、慶喜の大坂からの逃亡の真相を聞いて得心する場面などは「できすぎ」です。歴史展開の部分は、あらすじをなぞったような感じでいただけません。もともと歴史を描ける作家ではないのですから、仕方ありませんが。

2014/4