りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2013-07-01から1ヶ月間の記事一覧

2013/7 無罪(スコット・トゥロー)

久々にスコット・トゥローさんの作品を読み、以前の作品を読み返してみたくなりました。優れた法廷小説とは真実を追究していく過程で人間性が問われていく物語なのです。すべてがさらけ出され、ギリギリの答弁を求められる法廷で、真実を語らない者はその報…

悪魔のパス天使のゴール(村上龍)

イタリア・セリアAの弱小チームでファンタジスタを努める日本人プレーヤー、夜羽冬次を主人公に据えたサッカー小説。モデルは明らかに全盛期の中田英寿ですね。タイトルは本文中の「ゴールのときにはスタジアムが爆発するが、スルーパスが通ったときはスタ…

すき・やき(楊逸)

日本語を母語としない作家として初めて芥川賞を受賞した著者の日本語は、なんと巧みなのでしょう。 高級すきやき屋でアルバイトをはじめた中国人留学生・虹智(ココちゃん)は、何本もの紐で縛られた着物姿の我が身を「束ねられた長ネギ」にたとえ、中国的に…

禁猟区(乃南アサ)

『凍える牙』に始まる女性刑事・音道貴子シリーズの著者による新しい警察小説の主人公は、「女性監察官」すなわち犯罪に手を染めた警察官を捜査する組織に転属された沼尻いくみでした。しかし、いくみ自身が被害者となる最後の短編も含んで、新の主人公は、…

夏の嘘(ベルンハルト・シュリンク)

名作『朗読者』や『帰郷者』の著者による、『逃げてゆく愛』以来10年ぶりになる短編集のテーマは「嘘」でした。 人は「嘘」をつきます。自分を守り他者を傷つけるためではなくても、親しい人を守ろうとして、世間の共通認識に合わせようとして、単に真実を…

レイ・ザ・フェイバリット(ベス・レイマー)

ソーシャルワーカー、出張ストリッパー、賭博師助手、アマチュアボクサーなど、若くして多彩な経歴を経た後、大学でライティングを学び、自伝的小説を著わした作品が本書です。物語の中心は、もちろん賭博師助手時代のことであり、レベッカ・ホールとブルー…

本のなかで恋をして(パオラ・カルヴェッティ)

ミラノに住む50歳のバツイチ女性・エンマは、叔母から相続した文房具店を「夢うつつ」と命名し、恋愛小説だけを扱う書店に変貌させます。友人たちは彼女の経営力を心配したけれど、やはり書店の魅力はセンスです。だんだん書店も軌道に乗って来ました。 そ…

蔵書まるごと消失事件(イアン・サンソム)

本と図書館を愛するダメ青年のイスラエル。憧れの図書館司書の職を得て、ロンドンからはるばるアイルランドの片田舎タムドラムへとやってきたのですが、なんと図書館は閉鎖。代わりに提供されたのはポンコツのマイクロバスを使う移動図書館の仕事だったので…

わたしが降らせた雪(グレース・マクリーン)

内面の奥深くへと向かった、少女のイニシエーションの物語です。小さな町で信仰に篤い布教者の父とふたり暮らしのジュディスの悩みは、学校でいじめられるていること。彼女の心のよりどころは、自分の部屋に作った模型の世界「最も美しい土地」でした。 ある…

とうざい(田牧大和)

時代小説の書き手として女性作家が増えていますが、この方はゾーンに入ってきた気がします。松井今朝子さんもうかうかしていられないかも。『濱次お役者双六シリーズ』で江戸時代の役者ものに取り組んだと思ったら、今度の題材は文楽でした。 江戸木挽町の文…

祖母の手帖(ミレーナ・アグス)

表紙に描かれた、黒々と豊かな髪をシニョンにまとめた美しい女性は、若いころの祖母の姿。激しい情熱の持ち主だった故に嫁ぎ遅れていた祖母は、大戦末期の1943年、サルディーニアの小村に疎開してきた祖父と愛のない結婚をしたものの、子どもには恵まれ…

無罪(スコット・トゥロー)

法廷小説の定義を覆し、ハリソン・フォード主演で映画化もされた名作『推定無罪』の直接の続編では、あの事件の登場人物たちが23年後に再び一堂に会します。 女性検事補キャロリン殺害事件の裁判で無罪を得たラスティ・サビッチは上訴裁首席判事に上り詰め…

空の拳(角田光代)

日経新聞に連載されていた時から気になっていた小説です。一気読みできない連載小説は読まないことにしているのですが、時々断片的に読んでしまうことがあるのです。 出版社で文芸誌を希望しながら、なんと廃刊間際のボクシング雑誌に移動させられてしまった…

一葉舟(領家高子)

『たけくらべ』で樋口一葉の文章に魅了され、彼女の文筆活動がピークに達した「奇跡の14ヶ月」の秘密に挑んだ本書を手に取って見ました。一葉の代表作はすべて、24歳と6ヶ月で亡くなる直前の14ヶ月間に書かれているんですね。 本書は、一葉(夏子)と…

渡りの足跡(梨木果歩)

以前のエッセイ『水辺にて』では、カヤックを漕ぎながら、鳥と語らい、木々の匂いをかぎ、水の流れに身を委ねる趣味について触れていらっしゃいましたが、バード・ウォッチングの趣味は本格的なものだったのですね。 著者は、鳥たちの「渡り」に思いを馳せな…

終わらない歌(宮下奈都)

それぞれに挫折感を抱いた少女たちが高校卒業を前にして「歌」で結びついた群像劇『よろこびの歌』から3年後、彼女たちはどうなっていたのでしょう。 著名なバイオリニストを母に持つ御木元玲は、音大に進学したものの自分の歌に価値を見いだせなくなってし…

夢違(恩田陸)

夢を「夢札」としてデジタル映像化する技術が発達し、「獏」と呼ばれる機械で他人の夢の映像を分析する「夢判断」が可能となっている時代。「夢判断」を職業とする浩章は、かつての兄の婚約者で何度も鮮明な予知夢を見た有名人の古藤結衣子の幽霊を見かけま…

血霧(パトリシア・コーンウェル)

「検屍官シリーズ」も第19弾になりました。ひところは全くつまらなくなっていたのですが、最近また初期のおもしろさが戻ってきたように思えます。 前作『変死体』で、ケイの長年の同僚フィールディングが死亡した事件は、まだ尾を引いています。父親であっ…

言の葉の樹(ル=グィン)

「ハイニッシュ・ユニバース・シリーズ」もこれで9作目になります。翻訳されている作品はここで終了。未翻訳作品があと2作あるようなのですが、今まで出版されていないのですから、今後も期待薄でしょうか。 このシリーズは、遥かな過去に崩壊した宇宙文明…

最終退行(池井戸潤)

元銀行マンの著者は、バブル崩壊期に銀行が行ったなりふり構わない「貸し剥し」や、放漫経営の責任をとらなかった経営陣にかなりの不満があるのでしょう。『オレたちバブル入行組』でも同じテーマが取り扱われています。 都市銀行の中でも「負け組」といわれ…

のろのろ歩け(中島京子)

1998年の北京、2012年の上海、おそらく現代の台湾。刻々と変化しているアジアの街を訪れた3人の日本の女性たちは何を思ったのでしょうか。街の内側にいる者には見えにくいものが見えたのでしょうか。でも実際に彼女たちが見たものは、自分自身の変…

たけくらべ(樋口一葉)

24歳で早世した一葉は、短い晩年に傑作を書き綴りました。本書に収録されている3作は、死の1年前「奇跡の14ヶ月」と呼ばれる期間に発表された代表作です。 「たけくらべ」 廓の街に住む勝気な美少女・美登利と、お寺の息子・信如のせつなく不器用な初…

蒼穹のかなたに(エティエンヌ・バリリエ)

ルネサンス期のフィレンツェで活躍した哲学者、ピコ・デッラ・ミランドラの生涯を描いた小説です。豪華公ロレンツォ・デ・メディチ、新プラトン主義者フィチーノ、天才画家ボッティチェッリ、後にフィレンツェで神権政治を布くことになるサヴォナローラなど…

三谷幸喜のありふれた生活10 それでも地球は回ってる

朝日新聞に連載されているエッセイも第10巻になりました。 この巻の対象となっているのは2010年4月から2011年5月までですから、仕事としては、人形劇「新・三銃士」が終わり、舞台は「ろくでなし啄木」や「国民の映画」が上演され、「ベッジ・パ…

PK(伊坂幸太郎)

「PK」、「超人」、「密使」からなる三部作です。それぞれリンクしているようで、微妙なズレも含んでおり、あまり整合性にこだわらすに読んでかまわないのではないかと思います。未来には複数の選択肢があるのですし、「ひとつひとつの決断が世界を変えて…