時代小説の書き手として女性作家が増えていますが、この方はゾーンに入ってきた気がします。松井今朝子さんもうかうかしていられないかも。『濱次お役者双六シリーズ』で江戸時代の役者ものに取り組んだと思ったら、今度の題材は文楽でした。
江戸木挽町の文楽小屋松輪屋を舞台にして、役者は揃っています。柄は大きいが気は小さい、紋下太夫の雲雀太夫。役者も裸足で逃げ出す色男、人形遣いの吉田八十次郎。本場大阪の竹本座から下ってきた、師匠と呼ばれる三味線方の鶴沢幹右衛門。座元の亀鶴に娘のお珠。人形師の彦太に衣装係のおせん。敵役には新興の松輪屋の勢いを嫉む老舗小屋。
大阪から来たという子連れの謎の老人が一座を訪問して幕を開けた物語。そこから始まる事件と謎。老人の正体は竹本座の紋下、正太夫。では子どもの正体は? 折りしも新作浄瑠璃「浜千鳥仇討行方」の上演を前に、無人の舞台から聞こえ来る三味線の謎。これは薄幸の遊女千鳥の恨み節?
さる大名家まで巻き込んだミステリ部分は、間違いと勘違いであっさり解決してしまいますし、それ以上の深い謎もなさそうです。でもこれだけのメンバーを揃えて、これっきりということはありませんね。ということは、シリーズ化を前提とした顔見世興行というところでしょうか。とざいとうざい~。
2013/7