りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

夢違(恩田陸)

イメージ 1

夢を「夢札」としてデジタル映像化する技術が発達し、「獏」と呼ばれる機械で他人の夢の映像を分析する「夢判断」が可能となっている時代。「夢判断」を職業とする浩章は、かつての兄の婚約者で何度も鮮明な予知夢を見た有名人の古藤結衣子の幽霊を見かけます。彼女は数年前に事故死したはずなのに・・。

一方で子どもたちが集団悪夢を見るという事件が全国的に発生しており、浩章たちは解析に追われますが、その中に古藤結衣子らしき女性も登場しているというのです。やがて浩章は、夢札、現実、映像の記憶、自分の夢や他人の夢の区別が次第に曖昧になっているのではないかとの疑問を覚えます。そしてそれらが互いに影響を与え合っているのではないかと・・。

物語の伏線は多彩なのですが、恩田さんの作品に全ての謎解きを期待してはいけません。むしろこの作品は、「古藤結衣子」の謎を追うとの基本プロットが明確で、結末もすっきりしているほうではないかと思います。ラスト、法隆寺の夢殿で浩章が再会した結衣子は、現代の「夢違観音」となったと解釈しているのですが、いかがでしょう。彼女が存在する場所を「電脳空間」などと言い切らずず、あいまいに「集合的無意識」としているような点は、いかにも恩田さんらしい。

集団白昼夢とか、八咫烏とか、和水仙とか、不思議な霧とか、小学校の集団神隠しなど、例によって放置されたままの伏線がたくさんあるのですが、「夢違」によって変更された未来、起きなかった悪夢と思えばいいのかも?

また、鍵になっていた「あのはる」の「3月14日の月曜日」という日にちは2011年にあり、大震災の3日後にあたっていますが、本書はその前に大半が書かれていたということですので、関係ありませんよね。

2013/7