りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

すき・やき(楊逸)

イメージ 1

日本語を母語としない作家として初めて芥川賞を受賞した著者の日本語は、なんと巧みなのでしょう。

高級すきやき屋でアルバイトをはじめた中国人留学生・虹智(ココちゃん)は、何本もの紐で縛られた着物姿の我が身を「束ねられた長ネギ」にたとえ、中国的に聞こえる「いらーっしゃいっまーせ」を日本人のゆに発音するには「いらっしゃいませ」の「っ」で挫折感を出せばよいと気づきます。さすがに「かしむかりました」は根本から違ってますけど。

ココちゃんが、彼女に思いを寄せる韓国人留学生の柳賢哲と交わすカタコトの日本語も見事です。もちろん奇妙な日本語だけど、コミュニケーションなんてこれでいいんですね。このあたりは中国からの留学生だった著者の実体験なのかも?

異文化と接したココちゃんの「驚くけれど直視する」姿勢もいいんです。妻子持ちの横山さんに恋してしまった水商売(水道局ではありません)のヒジリちゃん、仲居仲間のキョウコさんを目当てに作業服姿で通い詰める叩き上げ社長の鈴木さん、妻が認知症になってしまった上品な初老の薮中夫妻。仕事優先の日本人と結婚した姉・思智の家庭内不和。誰のことも非難はせずに、それそれの事情や心情を理解しようとするのです。

しかし、「礼儀正しさとクールな弥生人の顔」は本当に、日本人男性の魅力なのでしょうか?

2013/7