りぼんの読書ノート

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蒼穹のかなたに(エティエンヌ・バリリエ)

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ルネサンス期のフィレンツェで活躍した哲学者、ピコ・デッラ・ミランドラの生涯を描いた小説です。豪華公ロレンツォ・デ・メディチ、新プラトン主義者フィチーノ、天才画家ボッティチェッリ、後にフィレンツェ神権政治を布くことになるサヴォナローラなどの人物と交わり、「ヒューマニズム」の基礎を築いたとされる人物。

フィレンツェ近郊の小領主ミランドラ家の次男として生れたピコは、美貌に恵まれた早熟な天才であり、若い時代の交友関係も「グローバル」なものであったようです。陥落したコンスタンティノポリスから逃れた者たちによって東ローマ教会や古代ギリシャ思想がイタリアに持ち込まれたことに加え、トルコとの友好関係を目論むベネツィアの存在もあって、東西の思想が融合される機運が高まっていたんですね。

ラテン語ギリシャ語のみならず、ヘブライ語アラビア語も学んだ知識を得たピコの思想は、カトリックの狭い知的空間を軽々と越えていきます。古代ギリシャプラトンアリストテレスユダヤ教のカバーラ、イスラムのアヴィケンナやアヴェロエスの知識を吸収したピコは、キリスト教も、ユダヤ教も、イスラム教も、古代ギリシャ思想も皆、同じことを教えていると言うに至るのだから凄い。

そのうえで人間の自由意志を高らかに歌い上げ、人間を世界の中心に据えるとの思想にたどりついたピコがローマ教会から異端視されるようになっていったのは当然の流れなのでしょう。ひとたびはフランスに逃れ、後にロレンツォの助力で破門を解かれたピコでしたが、ロレンツォの死後、フランスがイタリアに進攻してきた1494年に31歳の若さで謎の死を遂げてしまいます。本書では、秘書の恨みをかって毒殺されたとされますが、背景には複雑な陰謀があったような含みも・・。

ところでフィレンツェルネサンスのひとつの頂点であったピコが、反ルネサンスの象徴とされるサヴォナローラと親交があったと聞くと、意外ですね。しかし、サヴォナローラ神権政治には「宗教改革の先駆者」と評価される部分もあるようです。ピコはもちろん、サヴォナローラの登場ですら時代の要請だったのでしょう。

2013/7