りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ザ・ロード(コーマック・マッカーシー)

『すべての美しい馬』で全米批評家協会賞と全米図書賞をダブル受賞した著者の新作です。前作『血と暴力の国』で「絶対悪」を象徴するかのようなシュガーという存在を作り上げ、「世界は悪い方向に向かっている」と嘆いた著者は、ついに文明を滅ぼしてしまい…

愛の続き(イアン・マキューアン)

恋人クラリッサとピクニックに出かけたジョーは、気球の事故で一人の男性が墜落死した事件に遭遇してしまうのですが、その場に居合わせた奇妙な青年パリーから、後日かかってきた電話がジョーの生活を一変させてしまいます。 パリーは言うのです。「あなたは…

絶海にあらず(北方謙三)

平安時代、瀬戸内海で海賊を率いて朝廷に対して反乱を起こした藤原純友を描いた作品です。当時、栄華を極めていた藤原忠平に連なる藤原北家の出身であり、伊予掾として海賊を鎮圧する立場にあった純友が、なぜ自ら瀬戸内の海賊たちの頭領となって反乱を起こ…

変愛小説集(岸本佐知子編訳)

「恋愛小説」ではなく「変愛小説」ですので、ご注意ください。確かにだいぶ変わった恋愛がテーマで、タイトルやテーマで引いてしまう人もいるのではないかと心配になってしまいます。(実際に引いた話もありました) でも編者も言っている通り、設定や対象が…

プリズン・ストーリーズ(ジェフリー・アーチャー)

スキャンダルで上院議員を辞任し、その後偽証罪によって2年間の服役経験がある著者が、獄中で出会った人たちの話をネタにした短編集。実名が記されている話もあって、いわばイギリス版の『塀の中の懲りない面々』なのですが、どこまでが実話なのでしょうか…

サクリファイス(近藤史恵)

空気抵抗に支配される競技である自転車ロードレースというのは、チーム競技なんですね。チームのエースを勝たせるために、他のチームメイトたちはアシストに徹するのです。レースの先頭に飛び出して自チームのエースの有利になるように全体のペースを調整し…

ナチス狩り(ハワード・ブラム)

「ナチス狩り」というタイトルで『オデッサ・ファイル』のような小説を期待していましたが、戦争犯罪者のナチスをハンティングするのは、ストーリーのほんの一部。本書の中核をなすのは、第二次世界大戦末期に創設されたイギリスの「ユダヤ人連隊」が、イス…

フェルマーの最終定理(サイモン・シン)

17世紀の数学者フェルマーが残した「最終定理」の証明にかけた数学者たちが繰り広げた、3世紀に及ぶ知的な闘いのドラマ。帰国便の中で映画も見ずに読みふけってしまいました。 「フェルマーの最終定理」がこれほどまで有名になったのは、「私はこの命題を…

エア(ジェフ・ライマン)

近未来、中国、チベット、カザフスタンに国境を接する架空の国家で行なわれたのは、「エア」と呼ばれる新しいネットワークシステムを1年後に一斉導入する前のテスト。これは、個々人の脳内にネット環境をフォーマットし、意識から直接アクセスできる画期的…

深海のYrr(フランク・シェッツィング)

深海に棲む未知の知的生命体との「コンタクト小説」です。地球環境の破壊に警告を発するとともに、アメリカを中心とする覇権主義を非難するという、いかにもヨーロッパ的な小説なのですが、ドイツで記録的なベストセラーとなったとのこと。 人類が突然、海か…

文学賞メッタ斬り 2008年版(豊崎由美、大森望)

シリーズ4作めともなると、2人の言いたい放題も、もう新味はありません。巻頭対談に登場した長嶋有も石田衣良も、私の読書対象ではないので興味は薄かったですし。 「大変よくできました」との副題は、川上さんと桜庭さんという前回の芥川賞、直木賞受賞者…

灯台守の話(ジャネット・ウィンターソン)

『ねにもつタイプ』の岸本佐知子さんの翻訳です。 スコットランド最果ての港町に生まれ育った少女シルバーは、母が事故死した後、盲目で老いたケープ・ラスの灯台守ピューに引き取られ、灯台で暮らし始めます。灯台守の重要な仕事は、光を絶やさないことだけ…

いのちのパレード(恩田陸)

1959年から63年にかけて18巻発刊されたという早川書房の『異色作家短篇集』。「あの黒い表紙、強烈な帯コピー、シンプルかつ洗練されたデザイン。手に取った時の、嬉しいような怖いようなおののきを今でも覚えている」と語る恩田さんには、そのよう…

一茶(藤沢周平)

「痩せ蛙まけるな一茶是にあり」とか「やれ打つな蠅が手を摺り足をする」などの句で知られる一茶は、のんびりと田舎に住んで、小さいものや弱いものにも目を配っていた、いかにも善良な俳諧師であるかのような印象があります。 でも、その実態は全然違うんで…

わたしを愛した狼(ケリー・アームストロング)

本書のヒロインは、世界でただ1人の狼女であるエレナ。人狼には、親からの遺伝を受け継ぐ先天性と、咬まれてなる後天性があるのですが、人狼として生まれるのは100%オス。通常の女性は、咬まれて人狼に変身する苦痛に耐えられないとのことで、彼女が唯一…

楊令伝5(北方謙三)

「北方水滸伝」の続編であるこのシリーズも、この巻で、物語は大きく動き出します。北では遼に対して燕雲十六州を取り返す戦いを仕掛け、南では方臘の宗教反乱を鎮圧すべく、南北に勢力を分断された宋の禁軍が、それぞれの制圧に手間取る中、ついに楊令の指…

密偵ファルコ 2.青銅の翳り(リンゼイ・デイヴィス)

古代ローマ帝政時代、ネロの自殺後の混乱を収めてウェスパシアヌスが帝位についたばかりの時代を舞台とした、歴史ミステリの第2弾。 前作で、銀鉱山の不正金の流れを究明して、ウェシパシアヌスに対する反乱の企てを察知したファルコですが、まだ全て形がつ…

黎明の星(ジェイムズ・ホーガン)

太陽とともに惑星が誕生してから数十億年、整然と公転が続いてきたという「静態的な太陽系論」を打ち砕いたのが、前作『揺籃の星』。地球はかつて木星の衛星であり、巨大惑星の爆発と、度重なる天体同士の接近遭遇の都度、軌道も地軸も変わるほどの激変にさ…

楽園ニュース(デイヴィッド・ロッジ)

ロンドンから格安チケットでハワイに向かう、中年男性と初老の父親。この2人は、ハワイでのパラダイス生活を楽しみにしている他のツアー参加者と違って、観光のために地球を半周するのではありません。移住先のハワイで死の床についてしまった父親の妹、す…

ジーン・ワルツ(海堂尊)

「クール・ウィッチ」と呼ばれる産婦人科医・理恵が、現代の産婦人科医療の問題に鋭くメスを入れていきます。 産婦人科医師の不足問題が深刻になっていることは、昨今のニュースを見るだけで一目瞭然。昼夜を問わぬ分娩に立会う過酷な労働条件に加えて、高い…

九つの、物語(橋本紡)

大学生の藤村ゆきなの前に、2年前に死んだはずの兄が突然現れて、生きていた頃と同じように普通に暮らし始めます。いったい何が起きているのかわからないままに、兄との不思議な生活に心地よさを感じていたゆきなでしたが、ある日、自分が兄の死の真相を全…

航路(コニー・ウィリス)

臨死体験をテーマにした物語ということでなかなか読む気が起きなかったのですが、そんな心配は一切不要でした。文句なしにおもしろい! 長さも気になりません。 前半はコミカルな展開なのです。認知心理学者であるジョアンナは、NDE(臨死体験)の原因を…

2008/6 四月馬鹿(ヨシップ・ノヴァコヴィッチ)

『暗号解読』とか『世界の測量』といったノンフィクション系の本は読み応えがあるけれど、荒唐無稽なフィクションのおもしろさだってなかなかのもの。 クロアチアの運命を悲喜劇的に一身に体現してしまったイヴァンの物語だって(四月馬鹿)、インドのパイ少…