りぼんの読書ノート

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深海のYrr(フランク・シェッツィング)

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深海に棲む未知の知的生命体との「コンタクト小説」です。地球環境の破壊に警告を発するとともに、アメリカを中心とする覇権主義を非難するという、いかにもヨーロッパ的な小説なのですが、ドイツで記録的なベストセラーとなったとのこと。

人類が突然、海からの攻撃を受けるのです。ノルウェー沖の北海油田では、新種のゴカイがメタン・ハイドレード層に群がって掘り進む。カナダ沖では、クジラやオルカがホエール・ウォッチングの観光客を襲いはじめる。フランスでは、ロブスターに潜む致死性の病原菌が、猛威を振るいはじめる。さらに世界中で、舵に張り付いて船舶を航行不能にする貝や、猛毒のクラゲやタコが大発生。それらに共通して目撃された、薄青く光る靄のようなゼラチン状の物体とは?

科学者や生物学者たちが異常の原因を追究している中、北海のメタンハイドレード層が崩落。大規模な海底地滑りによる巨大津波で、なんとヨーロッパ北部は一気に壊滅してしまいます。アメリカは女性司令官ジューディス・リーのもとに、世界中の英知を結集させて事態の収拾をはかりますが、新たに「発見」されたのは、メキシコ湾流が止まったという恐るべき報告。氷河期がはじまろうとしているのです。

一連の異常事態は、深海に潜む知的生命体による人類を標的にした攻撃であると確信したリー司令官は、海洋生物学者ヨハンソンや、生物学者アナワクや、地球外生物研究者クロウや、海洋ジャーナリストのウィーヴァーらとともに、ヘリ空母グリーンランド海に向かいますが、そこで見出された真実とは、想像を絶するものでした・・。

異種知性体の正体が既成のエイリアンの枠を超えていて、完全に意表を衝いてくれました。この種の小説では、意外性だけでなく、いかにもありえそうという蓋然性も問われるのですが、その両方をクリアしている発想というものは、なかなかあるものではありません。

しかも、その存在を宇宙ではなくて深海に求めたことが、非常に効いているんですね。海洋資源の乱獲、海洋汚染、深海への放射性廃棄物投棄など、胸に手を当てて考えてみると、深海の生物が人類を攻撃したくなる理由は、嫌になるほど思い浮かんでしまうのですから・・。地球温暖化を防ぐためにも、メタン・ハイドレードの発掘などは中止したほうがよいのかもしれません。

惜しむらくは、主要な登場人物が多すぎたこと。これだけ大きなテーマをリアルに描こうとすると、様々な分野での第一人者を集めるだけでも大人数になってしまうのはわかりますし、これでもだいぶ絞ったのでしょうが、小説としては多すぎです。カバー裏に主要登場人物が紹介されている文庫だったのは、助かりましたが・・。

2008/7