りぼんの読書ノート

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エア(ジェフ・ライマン)

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近未来、中国、チベットカザフスタンに国境を接する架空の国家で行なわれたのは、「エア」と呼ばれる新しいネットワークシステムを1年後に一斉導入する前のテスト。これは、個々人の脳内にネット環境をフォーマットし、意識から直接アクセスできる画期的なシステムなのですが、思わぬ悲劇が起きてしまいます。

ファッション・エキスパートというとカッコいいけれど、町に出かけてドレスや化粧品を調達し、村人に紹介する仕事をしていた中国系の中年女性チュン・メイが主人公。システム誤作動で事故死した隣人のタンおばあさんの意識が、彼女を助けようとしたメイの脳内に住み着いてしまったことから、物語が動き始めます。

メイの人生は変わります。エアの危険性を訴えて改善を求めたいのですが、どこに訴えたらいいのかもわかりません。一方で、まだ本格導入前なのにエアのアドレスを取得してしまったことを生かして、民族衣装を世界に宣伝し始めるとともに、やがて来るエアの時代に備えて無知な村人たちを教育する必要も感じるのです。

そして、これもタンおばあさんの影響なのでしょうか。年甲斐もなくタンおばあさんの息子シェンに恋してしまい、甲斐性のない夫を裏切って不倫し、異常な妊娠までしてしまう。もちろんこれは、因循姑息な村では決して許されないこと。メイは行動せざるを得ませんが、エアは彼女から何を奪い、何をもたらすことになったのでしょう。

物語のテーマは明快です。テクノロジーの進化は世界を変える。アジアの片隅の辺境に住む中年女性にだって、世界を変えることができるようになるのです。エアの本格導入の瞬間に生まれて、人生のはじめからエアの中に生きることになるメイの息子はその象徴ですね。

著者は、SFから実現不可能で奇想天外な要素を取り除いた「マンデーンSF」の提唱者だそうです。超光速異動、星間宇宙船、エイリアン、時間旅行、超能力などのガジェットが登場しないSFなんておもしろいのかどうか想像がつきませんが、「エア」というのはありそうなことなのでえしょうか?

2008/7