りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008/7 航路(コニー・ウィリス)

7月も前月に続いて、ノンフィクション系に読み応えのある本が揃いましたが、やはり上位はフィクションを選びましょう。新感覚SFのワンツーフィニッシュです。

1.航路 (コニー・ウィリス)
臨死という固くて暗そうなテーマを扱いながら、上下2巻を一気に読ませてしまいます。どうして、臨死経験者のコア体験には「音とトンネルと扉の向こうの光」があるのか。自ら臨死実験の志願者となったジョアンナが見たものは、なんとタイタニック!こんな結論を納得させてしまう論理に唖然とする間もなく、終盤にはとんでもないことが・・。発想も物語性も素晴らしい作品でした。

2.深海のYrr (フランク・シェッツィング)
メタンハイドレート層を掘り進む新種のゴカイに、観光客を襲い始めたクジラやオルカ。深海からの、人類に対する挑戦がはじまったのです。一種の「コンタクト」ものですが、Yrr(イール)と呼ばれることになる知的生命体は想像を絶する存在でした。海洋資源の乱獲とか、核廃棄物の深海投棄とか、温暖化とか、深海の生命体を怒らせる材料にはことかかない昨今、エコを訴える作品にもなっています。

3.愛の続き (イアン・マキューアン)]
気球事故の際に出会った青年から「あなたは僕を愛しているはずです」とストーカー行為を仕掛けられたことをきっかけにして壊れていってしまう中年男性。それは、科学者となることをあきらめた後悔なのか。恋人クラリッサに対する不満なのか。気球事故を防げなかったことの負い目なのか。原題の「Enduring Love」が、「持続する愛」でも「耐える愛」でもあるのと同様、多層的な内容を含んでいる小説です。

4.フェルマーの最終定理 (サイモン・シン)
誰でも知っている「ピタゴラスの定理」の「2乗」を「n乗」に替えると整数解はない! 「フェルマーの最終定理」を証明すべく、3世紀に渡って繰り広げられた天才たちの知的闘争は、ワイルズによって結実します。日本人数学者の貢献も大きかったんですね。こんな難解なテーマを興味深い読み物に仕立て上げてくれた著者の力量が素晴らしい!

5.ナチス狩り (ハワード・ブラム)
第二次大戦末期に結成されて欧州戦線に送り込まれた、パレスチナの「ユダヤ人連隊」。彼らが果たした役割は、ナチスに対する直接戦闘よりも、終戦後のナチス高官狩りよりも、イスラエル独立に向けて近代戦を学んだことにありました。でも、一番感動的だったのは、戦争孤児になったユダヤ人の子どもたちをパレスチナに移民させたことだったのです。





2008/8/1記