りぼんの読書ノート

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フェルマーの最終定理(サイモン・シン)

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17世紀の数学者フェルマーが残した「最終定理」の証明にかけた数学者たちが繰り広げた、3世紀に及ぶ知的な闘いのドラマ。帰国便の中で映画も見ずに読みふけってしまいました。

フェルマーの最終定理」がこれほどまで有名になったのは、「私はこの命題を証明できたが余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」という、フェルマーが残した謎の言葉に加えて、素人でも簡単に理解できるほど、問題がシンプルなことによるのでしょう。誰もが知っている、「xの2乗+yの2乗=zの2乗」というピタゴラスの定理。その「2」を「n」に変えるだけで、条件を満たす整数解がなくなってしまうというのですから。

1994年に「最終定理」を完全証明したアンドリュー・ワイルズの言葉がいいですね。「わたしが一番遠くを見ることができたのは、巨人たちの肩の上に乗ったからにすぎない」。いや、普通の人は、巨人の肩の上に乗るどころか、巨人の存在にだって気がつきませんよ。^^;

数学史上の巨人たちである、オイラー、ベルヌーイ、ラグランジュガウスガロア、ハーディ、チューリングらの名前に加えて、日本人の谷山、志村の名前があげられています。「最終定理」の証明は、1955年に発表された「谷山=志村予想」の上に成り立っているというのです。これは「楕円方程式とモジュラー関数という、数論上の全く異なる分野が一致する」との予想で、これが成り立つとすると、A分野の問題をB分野の理論で証明できるということに繋がっていく、「数学界のロゼッタ・ストーン」とも言われるものとのこと。

それだけでなく、物理学において電力・磁力・重力・量子論などをひとつの理論で括ろうとする「力の大統一」にも匹敵する「数論の大統一」に道を開いた・・などと言われてしまうと、今まで2人の名前すら知らなかったことを、同じ日本人として恥ずかしくなってしまいます。

ワイルズの証明は、「谷山=志村予想」の上に直接成り立っています。「世界で数十人しか理解できる人はいない」と言われるほど難解だそうですが、ステップは簡単。
 1.フェルマー予想が偽である(フェルマー方程式が整数解をもつ)と仮定する。
 2.この整数解からは、モジュラーでない楕円曲線を作ることができる。
 3.谷山・志村予想が正しいならば、モジュラーでない楕円曲線は存在しない。
 4.矛盾が導かれたので当初の仮定が誤っており、フェルマー予想は真である。
ということで、「谷山=志村予想」の証明が必要になるわけです。

でも、問題は残るのです。それな、20世紀の数学理論を駆使したワイルズの証明をフェルマーができたのかという疑問。フェルマーは間違っていたとの意見が大半ですが、17世紀の理論で解けたのかもしれないというロマンもあって、まだ多くの人が挑戦し続けているようです。

ロマンといえば、今後はコンピューターを使った力ずくの方法が主流になりそうとの不吉な兆候についても触れられていました。確かに、コンピューターで円周率を1兆桁以上も計算したなんてニュースには感動しませんもんね。

2008/7 帰国便にて