りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ナチス狩り(ハワード・ブラム)

イメージ 1

ナチス狩り」というタイトルで『オデッサ・ファイル』のような小説を期待していましたが、戦争犯罪者のナチスをハンティングするのは、ストーリーのほんの一部。本書の中核をなすのは、第二次世界大戦末期に創設されたイギリスの「ユダヤ人連隊」が、イスラエル建国に際してどのような役割を演じたのかというドキュメンタリーです。

そもそも、「ユダヤ人連隊」なるものが存在していたことすら知りませんでした。イギリス統治下にあったパレスティナユダヤ庁は、ナチスとの直接の戦闘を望んでいましたが、イギリスはユダヤ人に武器を与えることを嫌がり、終戦直前にようやく認められたとのこと。直接の戦闘こそ、イタリア戦線で数回あっただけでしたが、この部隊の意義は大きかったのです。

この部隊で近代戦を経験した者たちがパレスチナに戻ってイスラエル軍の創設に携わったことに加え、終戦によって不要となったイギリス軍の武器を倉庫から堂々と盗み出してパレスチナへと輸送し、独立後の対アラブ戦争に備えることができたそうなんです。その意味では、確かに、イギリスの懸念は当たっていましたね。^^;

でも最大の意義は、部隊が欧州に駐屯していた間に、ナチスの迫害を生き延びた子どもたちをパレスチナに向けて「不法に」送り出し続けたことにありました。不法に借り出したトラックを連ねて、連合軍による「人道的な」収容所に移された子どもたちを、待機させたチャーター船に送り込み、港を封鎖するイタリア政府に対してハンガーストライキを打って世論を動かし、ついには大規模のパレスチナ移住を成し遂げることができたのです。

そのきっかけが、「ナチス狩り」の繰り返しで精神を病みそうになっていた主人公たちが、元ナチス高官が潜んでいた教会に孤児として引き取られていたユダヤ人少女と偶然出会い、パレスチナ移住を強く訴えられたことであったというのですから、それ自体がドラマチックな物語となっています。

登場人物はすべて実在しており、膨大な資料と聞き取り調査によって書かれた物語です。シオニストの英雄カルミと、誇り高きイギリス士官肌のベルツと、文士タイプのピンチュクという3人の組み合わせもいいですね。幼いピンチュクの妹が奇跡的に虐殺を逃れて兄と再会するまでのサイドストーリーも含めて、読み応え十分の一冊です。

2008/7