りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

サクリファイス(近藤史恵)

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空気抵抗に支配される競技である自転車ロードレースというのは、チーム競技なんですね。チームのエースを勝たせるために、他のチームメイトたちはアシストに徹するのです。レースの先頭に飛び出して自チームのエースの有利になるように全体のペースを調整したり、グループの先頭を交替で走ってエースの体力消耗を防いだりするだけでなく、エースの自転車が故障したら自分の自転車を差し出したりもしなくちゃならない。勝つことを義務づけられた「エース」と、それをサポートする「アシスト」とで成り立っている自転車ロードレースチームは、女王アリと兵隊アリのように役割が分担されている世界のよう。

一方で、自転車の歴史が違う欧米とは圧倒的な力の差があるのが、日本の自転車界の実情。海外の一流プロチームと契約して走ったことがある日本人選手は、ほとんどいないとのこと。

本書の主人公の白石チカは、陸上競技のエースであった頃の苦い経験もあって、アシストでいることにある種の心地よさを感じているのですが、チームのエースである石尾の悪い噂を聞いてしまいます。それは、自分のライバルとなる可能性を持った若手をつぶして再起不能とさせたという、過去の事件。

そんな中、スペインのプロチームが、日本人選手をスカウトしたいとの情報が入ってきます。実力差に加えて国民感情の問題もあるため、欲しいのはエースではなくてアシスト役。「自分もヨーロッパで走ってみたい」との思いを抱いて、初の海外遠征に臨んだチカでしたが、思いもよらない悲劇が起きてしまいます。その真相は、真の意味で自らを「犠牲」とした行為に他ならなかったのですが・・。

昨年の本屋大賞2位で、直木賞にもノミネートされた作品です。確かに読んでいて心地よさを感じますし、事件の真相も意表を突いてくれるのですが、ちょっとありえない気がします。いや、自転車競技のためにここまで自分を犠牲にする人物の存在を信じられない私が、純粋でないだけかもしれませんが・・。

2008/7