りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

チヨ子(宮部みゆき)

イメージ 1

宮部さんの「ホラー&ファンタジー」作品で短編集に未収録の傑作を選りすぐって文庫化した本とのことですが、「ホラー臭」はあまり感じません。どの作品にも宮部さんらしい人間観察の深さとストーリー展開の巧みさを感じます。

「雪娘」12歳で死んだユキコを殺したのはわたし。20年後、なかよしグループで集まった雪の晩にユキコが現れますが、主人公には見えません。「私は、20年かけて、自分の手で殺めた幽霊を見ることさえできない人間になり下がっただけだった。」

「オモチャ」遠縁のオモチャ屋さんのおじいさんが亡くなる前、おばあさんのことを殺したのはおじいさんだという根も葉もない噂が立っていました。私はおじいさんの幽霊が見えます。いつも、次に立ち退く商店を悲しそうに見上げているだけです。

「チヨ子」アルバイトの女性が古びたウサギの気ぐるみをかぶると、周囲の人がぬいぐるみやロボットに見えてきます。鏡に写った自分の姿は、子どものころ大切にしていたチヨ子のぬいぐるみ。誰もが「それぞれのチヨ子」を持っていたんです。でも、そういう思い出のない人も・・。

「いしまくら」殺害された女子高生の幽霊という都市伝説を題材にした作品です。幽霊の噂の出所を調査していく中で、他と違う姿の幽霊を見たという者が現れますが、それは自分の心の内側の姿だったようです。人は見たいものを見るのです。

「聖痕」かつて世間を騒がせた凶悪犯であった少年は、自分がネットの中で救世主にされていることを知って狼狽します。しかし、自分とは関わりないはずの犯罪現場で少年が見たものは、救世主として現れた自分自身の姿だったのです。都市伝説が宗教に変貌する瞬間を描いた作品となっています。

最後の作品の種明かしは、SF映画「スキャナー・ダークリー」で使われていたスクランブル・スーツとのことですが、知らなくても問題ありません。

2012/1