アメリカの英国大使館員であった著者が1829年にアルハンブラに滞在した際の体験に当地の伝説などを含めた紀行文学であり、歴史に埋もれていたアルハンブラを一躍世間に知らしめた、歴史的な意義を持つ作品です。
8世紀にグラナダの沃野ベガに入植を始めたモーロ人によって築かれた軍事要塞は、13世紀にグラナダを首都としたナスル朝によって宮殿へと生まれ変わりました。15世紀末のレコンキスタによるグラナダ陥落の後、スペイン王室によって改築が行なわれましたが、後に放棄され、一時は貧民の住宅になっていたそうです。ナポレオンによるスペイン戦役の際には、フランス軍兵営も置かれていたとのこと。当時のスペインの様子を記した本としての価値もありますね。
著者がアルハンブラを訪れたのは、スペイン戦役からたった10数年後なんですね。戦争体験を語る元兵士も多くいて、セビリアからグラナダへと向かう道筋には盗賊も出没していたという、まだ政情不安定な時代。従者を連れての馬車での旅は優雅に思えますが、苦労も多かったようです。
ひとつはイスラムのナスル朝時代の歴史と伝説。レコンキスタの中でもキリスト教国との間に生まれた騎士道美談。カスティーリャ王国に屈して、イスラム教国のセビリア攻略に協力する王の苦悩。有力貴族だったアベンセラーヘ一族の滅亡。王女ソランダやセグンダの恋の物語。そして、グラナダ最後の王ボアブディルの悲劇。本書には、彼を残虐な王と描いた民間伝承を覆し、悲劇の王であったことを世に広めた功績もあったようです。
アルハンブラ宮殿を訪問する前には必読の一冊ですよね。^^
2012/1