りぼんの読書ノート

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キャパへの追走(沢木耕太郎)

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伝説の写真家となったロバート・キャパを一躍有名にしたのは、「崩れ落ちる兵士」と呼ばれるようになった1枚の写真でした。その写真に潜む謎を解き明かしたキャパの十字架の姉妹編ともゆうべき作品です。むしろ『キャパの十字架』は、本書の一部といってもいいでしょう。

キャパが切り取った「現代史の構図」ともいうべき写真が撮影された現場をたどり、21世紀の現在、それらの場所がどうなっているのかを検証していくという企画です。もちろん「私ドキュメンタリー」の創始者たる著者のことですから、「現場」を探し当ててたどり着くまでの過程も含めて、ドラマになっているのです。

著者が訪問した「現場」は、キャパの実質デビュー作であるトロツキーを撮影したデンマーク、運命のパートナーとなったゲルダ・タローと出会ったパリ、内戦時に訪れたスペイン各地、第2次大戦のノルマンディー海岸、連合軍に開放されたパリ、死の直前に一度だけ訪れた日本、最期の地インドシナ、そして墓所のあるニューヨークに至ります。

キャパの生涯を追体験する過程で見えてきた、「人間キャパの全体像」とは何だったのか。著者は「勇気あふれる滅びの道」と表現していますが、ちょっと違うような気もします。そのあたりは、人それぞれということで良いのでしょう。各章の最後に、キャパの写真と、著者による「半世紀後の現場写真」が並んでいるのが、興味深い作品でした。

あらためてキャパの写真を見ると、スペイン内戦も、ノルマンディー上陸作戦も、パリの解放も、キャパの写真のイメージをもとにして作られた多くの映画が、「人類の記憶」として人々の印象に残っているように思います。

2015/9