りぼんの読書ノート

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密偵ファルコ 2.青銅の翳り(リンゼイ・デイヴィス)

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古代ローマ帝政時代、ネロの自殺後の混乱を収めてウェスパシアヌスが帝位についたばかりの時代を舞台とした、歴史ミステリの第2弾。

前作で、銀鉱山の不正金の流れを究明して、ウェシパシアヌスに対する反乱の企てを察知したファルコですが、まだ全て形がついたわけではありませんでした。陰謀に加担していたと思われる有力元老院議員たちは、領地に引き篭もってしまったのですが、新皇帝は彼らを放置しておくわけにもいかず、一方で第二王子のドミティアヌスも加担していた陰謀の存在を公表するわけにもいかないため、和解を試みます。

ファルコは、皇帝の使者となって各地を訪問するのですが、元老院議員たちを暗殺しようとする謎の人物が登場。はじめは、既に死を賜った主犯者ペルティナクスと兄弟同然に育てられた解放奴隷のバルナバスの仕業かと思われたのですが、浮上してきたのは意外な人物でした・・。

本作で主な舞台となるのは、当時はネアポリスと呼ばれていたナポリ近辺です。気候も温暖で、風光明媚で、穀物やワインの産地でもあるナポリ湾近辺は、当時から裕福な貴族たちの別荘や領地だったんですね。由緒ある家系も財産も持っている有力者たちの中には、軍人上がりのウェシパシアヌスなどより、自分のほうが皇帝にふさわしいと思っていた者もいたのでしょう。第三代皇帝のティベリウスカプリ島で余生をおくったとのエピソードも紹介されていました。船が見えてから到着するまでの間、時間をかけて「冷遇する」準備ができたんだそうです(笑)。

ファルコは、ヴェスヴィオ火山の噴火に埋もれる8年前のポンペイも訪れます。ファルコの甥はポンペイで画家になりたいと言っていたのですが、この後どうなったのでしょう。第1作では、アメリカン・ハードボイルドのような主人公の語り口が気になりましたが、これは訳者の責任なんでしょうね。本書では、もう少しユーモラスな口調になっています。ただし、登場人物たちが現代人のように思考し行動する点は、作者の狙いなのでしょう。ペルティナクスの妻であったヘレナとの身分違いの恋の行方も気になります。

2008/7