りぼんの読書ノート

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楊令伝5(北方謙三)

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「北方水滸伝」の続編であるこのシリーズも、この巻で、物語は大きく動き出します。北では遼に対して燕雲十六州を取り返す戦いを仕掛け、南では方臘の宗教反乱を鎮圧すべく、南北に勢力を分断された宋の禁軍が、それぞれの制圧に手間取る中、ついに楊令の指揮のもと梁山泊が軍を起こし、河水地方の一部をたちどころに制圧するのです。

かつては点でしか確保できていなかった拠点が、今回はひとつの州に匹敵するエリアを手にしたわけで、もはや「反乱」というよりも国と国との闘いに近づいています。金を立国して遼を倒した女真族のアクダの戦略から学んだものが生かされていますね。かつての将帥たちの子弟をはじめとする若い力も育ってきているのも強みです。

さて、本書の大半は宋の立場から描かれます。北では、遼が去った後の燕雲十六州を独立させようとする動きが潰え、耶律大石は西方に去り、蕭珪材は金に下ります。宋は簡単に勝利できたはずなのに、腐敗した中央からの指示の混乱で金の力を借りてやっとのことで故地を回復。この借りは後に、高くつくことになるうだけどなぁ。

南では、童貫が自ら率いる禁軍と、方臘の宗教反乱軍の戦いに、ついに決着がつきます。方臘のもとに軍師として入り込んでいた呉用は、信徒を盾にして人命を惜しみなく費やし続けた宗教戦争を目にして、いったい何を思うのか。

本シリーズの魅力は、虚実が入り混じって歴史が展開していくところにあるのですが、後に南宋の悲劇の名将と謳われる岳飛少年は童貫の愛弟子として方臘との戦いの中で成長し、後に金との和平政策を進めて後世に売国奴とも呼ばれる秦檜は独特の政治観を披露。彼は宋の諜報機関ともいえる青連寺の李富に見出されて宮中に送り込まれるのですが、この2人のライバル関係も見過ごせません。

次巻からは、アクダ亡き後の金と宋との対決に加え、新たな勢力となった梁山泊を交えての三つ巴の戦いが本格的に始まるはず。これからの物語は、楊令と岳飛の2人を中心にして大きく展開していくのでしょう。

2008/7