りぼんの読書ノート

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黎明の星(ジェイムズ・ホーガン)

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太陽とともに惑星が誕生してから数十億年、整然と公転が続いてきたという「静態的な太陽系論」を打ち砕いたのが、前作揺籃の星。地球はかつて木星の衛星であり、巨大惑星の爆発と、度重なる天体同士の接近遭遇の都度、軌道も地軸も変わるほどの激変にさらされ続けて今の姿になったとの「動的な太陽系論」が事実をもって「証明」されてしまったのです。ただし、その証明は高くつきました。土星から噴出された巨大彗星アテナの接近によって、地球の文明は絶滅してしまったのですから。

本書はその続編にあたり、土星の衛星に理想郷的なコミュニティを築き上げていたクロニア人たちに間一髪のところで救出された前作の主人公、ランデン・キーンが地球に戻ってくる所から始まります。地軸はずれ、大陸と太洋は様相を大きく変え、動植物層はまったく変わってしまい、わずかに残った人類は原始時代のような生活をおくっている地球。クロニア人の助けを借りながら、地球に文明を再建しようとする生還者たちですが、「支配」や「貨幣」を廃したクロニア文化と、この期に及んでも権力に汲々としている旧地球の政治家や軍人たちとの対立が顕在化してしまいます。

ホーガンは、SF作家の王道を行くものとして、科学技術の進歩に揺ぎ無い信念を持ってる方ですね。人間の本質は「善」であり、宇宙や遺伝子に潜む「真理」を探究することこそが人類の使命であり、それを実現するために、悪弊を身につけてしまった旧世界の人類は、滅び去る必要があったのではないかとの思想は、ノアの箱舟すら連想させてくれます。このあたりの科学的楽観主義こそ彼の真髄であり、単純だけれど信じてみたくもなってくる。

ただ「再建の物語」は「破壊の物語」よりも迫力に欠けますし、基本思想もすでに前作で紹介済みですから、読み物としては『揺籃の星』には及びません。

2008/7