りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

楽園ニュース(デイヴィッド・ロッジ)

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ロンドンから格安チケットでハワイに向かう、中年男性と初老の父親。この2人は、ハワイでのパラダイス生活を楽しみにしている他のツアー参加者と違って、観光のために地球を半周するのではありません。移住先のハワイで死の床についてしまった父親の妹、すなわち中年男性バーナードの叔母を見舞いにいくところだったのです。

彼らのハワイ滞在は、はじめから暗くなってしまいます。なぜか妹に会うのを渋っていた父親は、ハワイに着いていきなり交通事故にあって骨折で入院。裕福だと思っていた叔母の貯金も、快適なケアハウスで晩年をすごせる水準には程遠い。バーナードを誘う女性も現れるけれど、彼は元神父で女性恐怖症のチェリーボーイ。^^;

では他のツアー参加者にとっては、ハワイはパラダイスだったのでしょうか。「旅行は過大評価されている現代の宗教」と主張しているジャーナリストは別格としても、結婚式で浮気を暴露されて妻に口を聞いてもらえないまま新婚旅行中のカップルや、心臓に持病を抱える夫を気遣う妻や、ハワイで息子がゲイとわかった夫婦や、理想の男性を探しながら叶えられない女性たちなど、誰もが、ハワイ旅行に失望してしまったかのよう。

ではこの本は、パラダイス幻想を打ち砕く目的で書かれた小説なのでしょうか。どうもそうでもなさそうです。バーナードと父をはねてしまった女性との関係改善を軸にして、物語はポジティブな方向に向かって動き出します。ツアー最後の晩のカクテルパーティで、マニアの観光客が撮影していたホームビデオの上映会を眺めながら、ハワイでの出来事を振り返ってみると、やっぱりそこはある種のパラダイスだったようにも思えてくるのです。

ビデオと二重写しになるのは、バーナードが克明につけていた日記なのですが、終盤になってこれも意外な効果を発揮。信仰も恋愛も失いかけていたバーナードがハワイで得たものとは何だったのでしょうか。そういえば、もともと「パラダイス」というのは、宗教的な言葉だったのですしね。

2008/7